「大腸菌は道頓堀の4倍」でもセーヌ川は安全だった? パリ五輪で再燃「アスリートの健康は二の次でいいのか」問題
オリンピックになくてはならない競技に
そのシドニー五輪のトライアスロンは現地を象徴するオペラハウス周辺をスタート&ゴールに実施された。自転車、ランニングは市内を走り、シドニーの風景が世界中に映し出された。そして、あの印象的な建造物オペラハウスに向かって選手たちがゴールする映像は、最終盤での劇的な逆転劇とも相まって鮮烈な感動を与えた。そのレースは、いまも伝説的に語られている。沿道の観衆とレースの臨場感を共有し、開催都市の風景と見事に調和するトライアスロンの魅力はIOCを興奮させたという。 多くの競技は、室内体育館やスタジアムで行われる。それがどこの都市か、場内の看板を見なければわからない。ところが、トライアスロンは見事にシドニーの風景と調和し、街と一体化して行われた。開催地シドニーにとっても、開催希望都市の減少を懸念するIOCにとっても、それは画期的な出来事だった。その時トライアスロンは、「オリンピックになくてはならない競技」として高い評価を得るに至ったのだ。 以来、北京でもロンドンでも、トライアスロンは市街で開催されるのが伝統となった。 2008年ロンドン五輪では市内のハイドパーク内にあるサーペンタイン湖が舞台だった。さすがにテームズ川は汚染がひどく会場にできなかった。もっともこの湖も大会が決まる前はテームズ川から水を引き込んでいたため、沈殿物が堆積し、藻が発生するなど水質はかなり悪かった。そこでテームズ川からの取水をやめ、地下水をくみ上げる方法に変えたほか、沈殿物を中和・分解させるなどの水質改善を図って開催にこぎつけた。
スイム・キャップにヘドロが……
それでも、「マラソンスイミングから上がった選手のスイム・キャップにヘドロか藻のような汚れがぶら下がっていて思わず目を背けた」と関係者から聞いたことがある。決して理想の水質ではなかった。それでも市街地が会場に選ばれ、喝采を浴びた。 東京2020でも、当初は皇居周辺での開催が検討された。セキュリティー等の理由で見送られたが、選ばれたのはお台場海浜公園だった。お台場の海も水質が案じられたが、懸命の努力で開催を実現している。 ワールドトライアスロンの大塚眞一郎副会長によれば、「東京2020のお台場での成功が、セーヌ川で実施するパリ五輪の大きな後押しになった。勇気を与えられたと今回もパリで賞賛されました」という。 そうした歴史的経緯やオリンピック・ビジネスの実情を考えたら、今後もトライアスロンは開催地の中心部で行われるだろう。2028年ロサンゼルス五輪は、海岸を持つ都市だから、さほど心配はないだろう。サンタモニカのビーチから主会場と想定されるメモリアル・コロシアムまでは約20キロメートルだから、都市の風景と調和したコースがいくつも想像できる。 だが、今回のパリ五輪・パラリンピック、そして将来の大会を見据え、「アスリートの健康が二の次にされていいのか」という課題は避けて通れない。この点は実際どうだったのか。五輪後、パリから帰国した大塚副会長に改めて現地の実情を聞いた。