<IS拘束事件>海外での情報収集能力 日本の実力は? 軍事ジャーナリスト・黒井文太郎
情報量が一番多いのは外務省
なお、こうした案件でもっとも情報量が多いのは、やはり外務省です。アラブ世界に精通した職員が多いからです。外務省には「国際情報統括官組織」という情報分析専門部局もありますが、こうした事件の場合はやはり「中東アフリカ局」が中心に動くことになります。とくに、なんといっても現地の事情は現地の日本大使館がもっとも把握しており、現地の人脈も豊富にあります。これらは中東アフリカ局が取り仕切っています。 警察庁では、警備局外事情報部の「国際テロ対策課」が中心になります。今回、ヨルダンの現地対策本部には、国テロ課が編成する現地派遣チーム「国際テロリズム緊急展開チーム」(TRT-2)と、外事情報部「外事課」の「外事特殊事案対策官」が派遣されています。TRT-2は現地治安当局に協力しつつ、情報収集も行いますが、常設のチームではなく、国際テロ対策課の職員を中心に、各都道府県警の職員が持ちまわりで指名されており、事件発生にともなって緊急招集されます。外国治安機関との連絡担当、情報分析担当、人質事件の交渉担当などもいますが、鑑識などの科学捜査の捜査員が多く任命されています。他方、外事課の外事特殊事案対策官は、テロ事件に限らず海外で日本が絡んだ突発的事態に対処するのが担当です。 ただ、こうしたチームが急に現地入りしたからといって、すぐに深い情報活動ができるわけではありません。警察庁の場合も、外務省出向のかたちで現地の日本大使館に派遣されている職員がもっとも情報ルートを持っています。通常は「警備対策官」として派遣されていますが、「書記官」の身分で派遣されている場合もあります。また、外事情報部は正式な派遣のかたちのほかにも、長期出向のかたちで随時、捜査員を海外に派遣しており、現地の治安・情報当局との接触を図っています。
公安調査庁や防衛省も
また、内閣情報調査室や法務省の「公安調査庁」からも、職員が外務省出向のかたちで現地の大使館に派遣されている場合があります。彼らは彼らで、独自に情報活動を行います。現地の治安部局との接触もありますし、おそらく現地のアメリカ大使館の司法アタッシェなどとも交流があるものと思われます。人によっては、アメリカのCIAやイギリスのSIS(通称・MI6)との情報ルートがあるかもしれませんが、そこは完全に水面下の話になります。 防衛省の場合は、活動の主力は主に「防衛駐在官」ということになります。防衛駐在官は任地国で現地の軍・国防当局と日常的に接触していますが、おそらくやはり現地派遣のアメリカの駐在武官との接触もあります。こうした国に派遣されるアメリカ駐在武官は主に情報将校ですので、そうした情報ルートもテロ事案では非常に重要になります。 ただし、防衛駐在官が入手した情報は、防衛省で情報を統括する「情報本部」だけでなく、外務省にも報告されます。