<IS拘束事件>海外での情報収集能力 日本の実力は? 軍事ジャーナリスト・黒井文太郎
ただし、いきなりそれで日本政府の情報力がアップするものではありません。日本政府としては、やはり関係国に協力を要請することと、イスラム国との交渉の仲介役を求めて、現地のイスラム系団体や有力なイスラム法学者などに接触することぐらいしかできなかったようです。 交渉の前提として情報は欠かせませんが、これは日本の弱点でもあります。日本政府にも、海外の治安情報などを収集・分析する部局はありますが、こうした国際テロ事案において、独自の情報ルートなどはありません。それは優秀な情報要員が長い年月と資金をかけて、地道に人脈を開拓するしかないのですが、そうした活動を日本は重視してきませんでした。事件が発生したからといって、急ごしらえでは対応できないのがインテリジェンスの世界です。
「国際テロ」情報を扱う役所は5つ
では、日本の対外情報収集・分析体制はどうなっているのでしょうか? 日本で国際テロ関連の情報を扱っている主な役所は5つ。「内閣情報調査室」「外務省」「警察庁」「防衛省」「法務省」です。その他に、海上のテロに関して「国土交通省海上保安庁」が加わります。これらの省庁が情報を収集・分析し、それが「国家安全保障局」に集められ、さまざまな対策の選択肢が検討されます。国家安全保障局は国家安全保障会議の事務局という位置づけですが、そこで検討されたものが事実上、政府が判断を下す元資料となります。国家安全保障局を情報収集の総元締めとカン違いしている言説を散見しますが、同局の機能は情報収集ではなく、各関係省庁から提供された情報を元に、あくまで政策の検討をすることです。 ただし、国家安全保障会議と国家安全保障局は新設されたばかりのものであり、それが完全に一本化されているかというと、そこは微妙なものがあります。こうした重大案件では、実際には官邸の対策室が事実上の司令塔になることが多く、日日刻々と入ってくる情報は、各省庁からそこに報告され、官邸が独自に判断することも少なくないようです。