ワカモレとチャイで〆るお正月
シャラ ラジマ「オフレコの物語」vol.15
南アジアにルーツを持つ、シャララジマさん。見た目で容易に規定されることなく、ボーダレスな存在でありたいと、髪を金髪に染め、カラーコンタクトをつけてモデル活動をしている。“常識”を鵜呑みにしない彼女のアンテナにひっかかった日々のあれこれをつづった連載エッセイ。
我が家のお正月のメインはビーフストロガノフとチキンカレーだ。そしてサイドがワカモレで、最後はチャイで〆ることとなる。誰がどうみても多国籍料理、多国籍生活。どうしてこんな奇妙な並びとなってしまったのかを、今回は皆さんに紹介しちゃおうかなと思っている。 私の家族は南アジア出身で、ニッポン的なお正月の概念はない。一応現地ではハッピーニューイヤーくらいの空気感でパーティーっぽくはなるけど、その後は普通の日常に戻るし、作る料理は春夏秋冬つねにカレーひと筋。カレーの概念については(美食の記事)を読んでいただければと思う。わたしは生まれながらのパリピなのか、祭りと花火と年越しなどの全ての人間が動くタイプの行事には小さい頃から目がなかった。宗教と文化的な新年を祝うのは旧暦になったりするし、あっちでは独立記念日とかが一番盛り上がる感じだ。まだ子どものころは独立とか宗教とかあんまり興味なかったし、一民族じゃなくて世界中の人が動くタイプのイベントの方が興奮した。なので日本に来てからのこの新年の盛り上がり、そしてお正月の非日常感はわたしのパリピ心に火をつける。中学の頃から年越しは張り切ってお詣りに行って初詣をし、初日の出を見るというお正月イベントを力強く楽しんだ。何年たってもお正月だいすき。 大人になってからも年越しからお正月にかけてのこの時期だけは、日本的なイベントにどっぷり浸かるのが好きだ。個人的に世界中見渡しても一番しっくり来るこの時期の過ごし方だと思っている。宗教的な行事であるにも関わらずさっぱりと成立していて、わたしのようなルーツの人にも開けている催しでとても好き。もう一つの一大宗教的行事である、夏のお盆はさすがに日本に先祖がいない私にとっては関わるのが難しい。しかし先祖の幽霊が帰ってくるから、仕事を休んで帰省して迎えるこの文化には感服する。例え霊を信じていなかったとしても、今でもその慣わし通りに人々が動いていることは尊いことだと直感的に感じる。 そんな私の年末年始の予定は緩急を大切にしている。今年は初めて冬至までに来年の目標を考え、掃除的なものをしてみた。年越しはたいてい昼間にお気に入りの蕎麦屋で、鴨せいろを食べる。夜は基本的に出かける。近年は除夜の鐘にハマっているので、年越しは108回の鐘の音を聞いて初詣をする。そこから熱いパーティーがあればクラブへ出かける。元旦は初日の出が大事なので、音楽を聴くのはいいところで堪えて日の出を見て新年の心を整える。元旦はまた参詣へ出かけるのだが、今度の目的はお経。豪華な大きい寺に行けばバンドレベルのお経が聴けて、それもうほぼ音楽だったりするのでリサーチしにいく。 そして三が日の最後には親戚の集まりなども最近経験する。お正月を背負って盛り上がりたい自分でもまだまだ文化的に初心者。驚くかなれ、お雑煮も3年前にはじめてたべた。小さく色んな食材が詰め込まれてかわいらしいおせちを経験したのも最近だ。毎年ではないが、お正月にパートナーと私の家族が集結するタイミングがたまにある。私側は例の如くチキンカレーを作ったが、パートナーの家族はまさかのビーフトロガノフを作る。これはアメリカ生活が長かったことで、日本人の母親ではあるが料理を覚えたのはニューヨークだった影響でこのチョイスとなる。料理をひとつひとつ出し合う、というかできることをした結果これにサイドのワカモレがついて、そのワカモレに呼応した私の親が必殺技のチャイを出すことで最後に〆をかました。なんとなく能力ものの漫画でやり合うような、大喜利し合うようなお正月。そして多様なメニューのはじめにはちゃんと日本の要素となるお雑煮をつけて完成。気がつけばそんなコースの多国籍料理なお正月が作りあげられてしまった私のライフ。 ●シャララジマ 南アジアにルーツを持つ、東京育ちのモデル、文筆家。“人種のボーダーレス”というテーマで容姿からは人種が容易に判断できないようにすることで、「No identity」というコンセプトを表現。自らの身体を使い、社会の中でインスタレーションをする新しい価値観が評価され、「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023」を受賞。ファッションシーンを中心とした活動から、唯一無二のキャラクターでバラエティー番組や報道番組などでも活躍中。bayfm「シャララ島」レギュラー出演中(毎週金曜日28:00~28:27) Photo&Text_Sharar Lazima
GINZA