金星探査機「あかつき」の現状 JAXA会見(全文1)残燃料は4.2年~11.8年分
佐藤氏によるIR1・IR2カメラの機能停止についての説明
佐藤:おはようございます。「あかつき」で、プロジェクトサイエンティストをしております佐藤毅彦です。私はIR2カメラの主任研究員、PIでもあります。中村が今、皆さまにお示ししました時間履歴の中に、IR1、IR2カメラ、2016年の12月10日から機能停止中というのがありましたけれども、その現状について一言だけご説明いたします。 IR1とIR2は共通して1台のエレクトロニクス、制御装置で制御されておりまして、その制御装置、IR-AEの電源系が不調というのが機能停止になっている理由であります。それ以外の部分に不調があるわけではないので、IR-AEを時々、定期的に電源を再投入を試みるということは、現在も続いております。それで再び立ち上がるという希望は必ずしも多くはないんですが、私たちとしてはできるだけこれが立ち上がることがあれば、再び使いたいという思いを持ってそれを繰り返しているところであります。 とはいいながら、2016年12月に機能停止するまでに、IR1、IR2共に大変クオリティーの高い金星の、近赤外線における撮像データを取得しておりまして、本日ここで皆さまに発表いたしますのはそのデータを詳細に解析したJavier Peraltaによる研究論文の成果の発表ということになります。そのようなわけで、IR1、IR2の機能停止中ということは変わりませんけれども、その最新の解析結果についてご報告させていただくという会です。よろしくお願いいたします。 司会:それではあらためまして、本日「あかつき」の観測成果を報告いたします、JAXA宇宙科学研究所太陽系科学研究系国際トップヤングフェローのJavier Peraltaでございます。
ペラルタ氏による観測成果報告
Peralta:ご紹介ありがとうございます。遅れまして大変申し訳ありません。このたびは記者会見にご出席いただきまして誠にありがとうございます。私はJAXAの国際トップヤングフェローのJavier Peraltaと申します。私からはこちらのタイトルにあります、「あかつきIR2で明かす、金星夜面における下層雲の運動」と題しまして解析結果などを説明させていただきます。 金星というのは非常に面白い惑星でして、大気が非常に面白い特徴を持っているために、60倍のスピードで、自転周期よりも60倍も速く回っています。こちらは大気のスーパーローテーションといわれていまして、ちょうどここの下層雲と上層雲のここのところで見ることができます。まず60から70キロメートルのところの上層雲のところで、このスーパーローテーションの運動を調べることができます。これは太陽光が反射するのでそれが可能になっています。一方で夜の面の下層雲においても、この厚い深部の大気からの熱紫外線によって運動を調べることができます。今までのミッションの大半は、上層部、昼面での運動の調査が多く行われてきました。そしてこの下層雲での調査というものが非常に限られておりました。そこで、この「あかつき」が夜面での風速を測定することが可能になったことは非常に大きな意義があります。 このスーパーローテーションというのは、この宇宙探索が始まってから50年もたった現在でも原因が不明なさまざまな仮説を持っている不思議な現象です。2つ非常に一般的な仮説がありまして、そのうちの1つが、この熱潮汐の仮説になります。これは、この太陽による定期的な上層雲の加熱が、この熱潮汐を励起させ、そして東向きに伝搬させます。そしてこの波は、雲の層を西向きに加速させます。そして、この雲の層の上下することによって、上や下へ伝わる波は、大気を減速させていきます。 もう1つの仮説が、Gierasch、Rossow、Williamsによる仮説でして、この理論的なメカニズムでは、複数のメカニズムが同時に発生するということを前提に立っています。このGieraschらの仮説によりますと、赤道と極の温度差によって、上昇流と下降流を伴うハドレー循環が発生します。渦と波動といった不安定な動きによる赤道向きの角運動量の輸送が、このハドレー循環、極向きとバランスを取っていきます。ということで、この目的はまずこのスーパーローテーションに関する下層雲のCharacterizationを行い、そしてどちらの仮説がより妥当性が高いのかということを検証することにあります。 こちらの画像は「あかつき」IR2の全データセットを解析したものになります。2016年の3月から11月まで、全466枚の画像を処理しています。波長は2.26ミクロンの画像を用いています。こちらの画像を見ていただきますと、この光害の影響を受けていまして、このように画像処理を使ってその光を除去するという補正を行います。そうすることによって雲の動きがよく分かるようになります。また、風を、風速を正確に測定するために、われわれ独自のインタラクティブな測定ツールを使ってリムを決定し、この模様の位置測定の精度を向上させました。 では、私たちが何を見いだした、何を発見したのでしょうか。3つあります。まず第1に、このマニュアル方式での雲追跡のおかげで、堀之内先生が以前にも確認された赤道に繰り返し現れるジェットの存在を再確認することができました。このマニュアルの追跡を使って行います解析は、半自動的なものでして、このように複数の画像を位相相関によって、画像に見える雲のパターンをマッチングさせます。そして、そこに目視によって波動に起因する測定などを排除していきます。 こちらの下のところの今、差したところの画像を見ていただきたいんですが、ここで波が伝搬しているということが分かると思います。これは実は異なる風速のものでして、通常の風とは違う動きを示しています。ここで私たちのほうでは精度の低い測定値や、それから波といったものを排除しまして、そしてこのマニュアル方式によって全部で2947個の風速測定を得ました。これは、堀之内らが使われた数よりも非常に少ないんですけれども、でもまったく別の方式を使ってらっしゃいます。 こちらに平均的な数値を見ることができます。異なる風のプロフィールの平均値ということになりまして、まずAといわれているところが、これが東西風速になります。こちら、赤っぽい色が2016年「あかつき」が撮った画像に基づいていまして、下の緑のところが2006年から2008年、Venus Expressが撮影したものになっていまして、この2つを比較しています。そしてこれ、10年間の期間がたっていますけれども、ご覧のとおり「あかつき」で撮影したものでは、ここでの緯度が上昇しているということがお分かりいただけます。幾つか違いがありまして、1つは「あかつき」で測定したもののほうが風速が速くなっているということ、もう1つはこの赤道付近での風速の強さが増しているということです。これはおそらく赤道ジェットによるものだと思われます。 こちらのBのほうは、南北の風速を測定したものです。この2つの間にさほど大きな差異はありません。この結果を見ていきますと、南北でさほど大きな明確な違いはありません。ということは、下層雲におけますハドレー循環は排除できる、もしくはあまりにも弱いので検出できなかったということが想定されます。 【書き起こし】金星探査機「あかつき」の現状 JAXA会見 全文2に続く