なぜF1角田裕毅とレッドブル戦略担当がSNSで誹謗中傷される“炎上騒動”が起きたのか…その陰謀説の真相とは?
過去にF1ではクラッシュ・ゲート事件という故意にクラッシュすることで、もう1台を有利にした事件があった。しかし、そのときは同じチームにいた2台で採られた策略で、今回は姉妹チームとはいえ、まったく異なるチーム。レース中、チームスタッフ同士が行き来することはできないし、無線で連絡を取ろうにも、それは国際自動車連盟(FIA)によって監視されており、作為的な戦略を採れば、違反の対象になるため、そんなことを行うはずがない。 しかも、角田が止まった状況を考えれば、それが事実無根であることは明白だ。 まず最初にコース上にマシンを止めたのはチームからではなく、角田自身の判断だったこと。 「ピットストップを終えてコースに復帰したら、まっすぐ走っていても片側だけタイヤがホイールスピンしていたので、リアタイヤがきちんと装着されていないと思った」という角田は、無線でそのことをピットに知らせ、チームは「すぐにマシンを止めるように」と指示を出す。 そのとき、角田はポイント争いをしていたため、自分からポイント獲得のチャンスを手放すことは考えられない。 また、11番手を走行していた角田が、上位陣の状況がどうなっているのかは知り得る術はない。 しかもチームはデータ上、タイヤは外れていないことを確認し、角田をピットインさせている。この時点でまだVSCは出されていない。ピットインした角田とチームはリアタイヤが片側だけ空転した理由をつかめないまま、タイヤを履き替え、もう一度ピットアウトしたが、今度はデファレンシャル(左右の駆動輪の間に設置されていて、左右の回転差を吸収する役割を果たす)に異常を示すデータが発見されたため、コース上にマシンを止めた。マシンに異常があることを認識しながら、走行を続けると違反に問われる可能性があるためだ。 つまり、オランダGPでの角田のリタイアは明確なメカニカルトラブルによるもので、コンストラクターズ選手権でランキング7位争いをしているアルファタウリにとっては、ポイント争いをしていた角田を故意にリタイアさせることはあり得ない話。 そもそも、もし何か怪しいことがあれば、優勝を逃したメルセデスが真っ先に抗議するはずだし、FIAも常に無線を監視しているため、黙ってはいないはず。その両者が何もアクションを起こしていないことからも、今回の一件は一部の不見識なファンによる見当違いな誹謗中傷だということがわかる。 アルファタウリはレース後、レッドブルのプリンシパル・ストラテジー・エンジニアのハンナ・シュミッツに対する誹謗中傷について、次のような声明を出した。 「我々アルファタウリはレッドブルの戦略責任者、ハンナ・シュミッツに向けられた数々の非礼な言葉に失望している。このような憎悪に満ちあふれた状況を、われわれは容認できない。(レッドブルとアルファタウリによる)不正行為との指摘もまったく事実と異なるものであり、ハンナとわれわれアルファタウリ、両方に対してのリスペクトを欠いたものだ。われわれは常に一つのチームとして公正に、最高レベルの敬意とスポーツマンシップを持ち、この競技での戦いを続けてきた。ユウキ(角田)はチームがすぐに発見できなかったトラブルに見舞われ、コース脇でストップした。このケースについて、異なる狙いがあったかのような示唆は無礼であり、断じて間違っている」 したがって、今回の騒動と、今後発表される角田の去就はまったく関係のないことも付け加えておこう。 (文責・尾張正博/モータージャーナリスト)