地震の爪痕残る能登半島で「法律家の卵」たちが支援活動、「おしゃべり」通じて住民が抱える法的課題を発見
●法的な課題を抱えていても相談を躊躇する人は多い
調査の中で訪れた仮設住宅では、集会所で定期的にサロン活動やカラオケ、体操などのイベントが開催されていた。私たちは、サロン活動に同席し、仮設住宅の住民たちから困りごとを聞き取るべく懇親を図った。 震災によって、従前からの課題であった高齢化が急速に進んだ能登地域では、若者の訪問は予想以上に歓迎され、地震発生時の様子や、避難所での生活といった被災に関する話題だけでなく、遠方で暮らす子や孫のこと、幼いころの地元の様子などさまざまな話に花が咲いた。 その傍ら、弁護士である私のもとには法律相談を希望する住民が集まった。 「ずっと気になっていたけどなかなか相談する機会がない」 震災後、金沢弁護士会や法テラス石川などにより、奥能登地域を訪問しての法律相談会が実施されているが、仮設住宅に居住する高齢者にとっては、情報が得にくかったり、移動手段がなかったりなど、アクセスが難しいという課題がある。 「こんなことを聞いて良いのかわからないけど…」 そう言って語りだす住民も少なくない。被災した住民にとっては、何が法律問題なのかがわからず、今の自分の困りごとが法的支援によって解決されるのか判断がつかないという側面もある。 また、奥能登地域は、震災前に法律事務所は2つしかなく、日本最後の「弁護士ゼロワン地域」だった。奥能登の住民にとって、弁護士はいまだに敷居の高い存在であり、法的な課題を抱えていても相談を躊躇する人は多い。
●「法律家の卵」と話することで法律家の存在を身近に感じてもらう
このような課題が見えてきたところで、ある自治体職員から心配の声が上がった。 「法律相談会を実施してもらっているが、仮設住宅に居住する住民に法的サービスが行き届いているかが心配だ」 これを聞いて、クリニックは、仮設住宅を訪問する巡回相談会を実施することとした。しかし、地域の特性から、法律相談会とすると住民の足が遠のくかもしれない。 そこで、法律家の卵である法科大学院の学生と話することで、法律家の存在を身近に感じてもらい、そうした会話から、住民が抱える法的課題に近づくことができないかと考えた。 こうして始めたのが「おしゃべりカフェ」の活動だった。