「救助が呼べない…」人里離れた山中で起こる恐怖…じつは、涼しいはずの山でも「暑さによるダメージは起こりうる」という「衝撃の事実」
登山人口は年々増加の一途をたどり、いまや登山は老若男女を問わず楽しめる国民的スポーツになっています。いっぽう、登山人口の増加に比例して山岳事故も増えており、安全な登山技術の普及が喫緊の課題となっています。 【画像】こちらは「低体温症」…「夏でも、十分起こりうる」ワケ 運動生理学の見地から、安全で楽しい登山を解説した『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)から、特におすすめのトピックをご紹介していきます。 今回は、これからの季節に気をつけたい暑さ対策について解説します。 *本記事は、『登山と身体の科学 運動生理学から見た合理的な登山術』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
行動適応という考え方
私たちは山で、暑さ、寒さ、風、雨、また高山に行けば酸素不足(低酸素)など、さまざまな環境の影響を受けますが、これらはいずれも疲労の要因となります。気象の変化が激しい日本の山では、雨や風への注意が必要です。 また夏山でも、暑さ対策だけでなく、寒さへの対処が必要になる場合もあります。このような環境の影響について、まずは、暑さについて、疲労が起こる仕組みやその対策を考えます。 暑い中で運動することのつらさは、誰もが体験したことがあるでしょう。このとき、身体はどのような状態になっているのでしょうか。 図「夏と冬に同じコースで登山をしたときの心拍数の違い」は、筆者が同じ登山コースを、真夏と冬に歩いたときの心拍数を比べたものです。真夏の登山では、冬の1.2倍以上の時間をかけてゆっくり歩いているにもかかわらず、心拍数はかなり高くなっています。特に、後半になるとその差が開いています。 真夏の登山では汗をたくさんかきます。このとき、水分補給が追いつかずに脱水が進むと、血液の量も減ってしまいます。すると、心臓1回分の収縮で脚などの活動筋 に送れる血液量が少なくなるので、それを補うために心拍数を増やして対応している のです。 行動中、水分補給が十分にできていればよいのですが、真夏の登山では脱水量も想像以上に大きくなるので、現実的にはなかなか追いつきません。このときの登山でも、持って行った2リットルの水ではまったく足りず、後半は喉の渇きに苦しめられました。心拍数が後半で特に高くなっているのは、脱水がより進行していることを表しているのです。 心拍数が高くなる理由は、ほかにもあります。真夏の登山では、運動で生じるたくさんの体熱を外界に捨てようとして、皮膚表面に送られる血液量が増えます。つまり皮膚へ送る血液と、活動筋へ送る血液とが競合して、筋への供給分を減らさざるを得なくなるのです。 割り当てが減ってしまった血液を、ふだんの量と同じだけ活動筋に送ろうとして、心拍数を上げて対応しようとするのです。しかし、そのようにしても十分には補えないため、いつものペースで歩こうとすればきつく感じることになり、結局はペースを落とさざるを得ません。これは典型的な疲労の現象といえます。