なぜ西武は不振打線の爆発で連敗をストップできたのか…殊勲は育成ドラフト出身20歳のリードオフマン高木渉
新型コロナウイルス感染の影響で開幕が大幅に遅れた今シーズンも、イースタン・リーグが主戦場となった。それでも、再び一軍へ呼ばれる自分の姿を信じて、チームで最多、リーグでは3位タイとなる7本塁打をマーク。楽天との6連戦を前にして、一軍切符をもぎ取った。 「周りの先輩方のバッティングを見ながら、何か学べるものはないかと思いながら毎日の練習に取り組んでいます。プレッシャーはもちろんありますけど、そのなかでも自分が精いっぱいプレーすることだけを心がけています」 爽快な逆転劇の余韻が残るなか、ヒーローインタビューで初めてお立ち台に上がった高木は初々しい声をスタンドへ届けた。メジャーへ移籍した秋山翔吾に代わる切り込み隊長探しが急務だった今シーズン。スパンジェンバーグ、4年目の鈴木将平、外崎に次ぐ4人目の1番を務め、2試合で打率5割、3打点と鮮烈な結果を残しながらも、ファンへのひと言と聞かれた20歳はこんな言葉を残している。 「明日からどの打順で、もしくはスタメンじゃないかもしれませんけど、自分のできる精いっぱいのプレーをもう一度、ドームにまで観に来てもらえると嬉しいです」 誰をも納得させる結果を残さなければ、一軍では生き残っていけない。プロの掟がわかっているからこそ、常に危機感と無我夢中さを同居させる。 辻監督が「調子のいいときに上へ来て活躍したことで、さらにレギュラー争いが厳しくなる」とポジティブに受け止めたように、高木の必死な姿がプロ野球選手の原点を思い起こさせるかのように、まさに触媒となって打線に化学反応を起こさせた。 森は第4打席でセンターの頭上を越える三塁打を、第5打席にはダメ押しのタイムリー二塁打を右中間へ放ち、高木、ベテランの栗山とともに猛打賞でそろい踏みした。先発メンバーでは4番・DHで復帰した山川穂高だけがノーヒットだったが、第1打席の三塁ゴロで源田をホームへ迎え入れている。つまり、森のタイムリーで先発全員打点をマークしたことになる。 「最後まであきらめずに、選手たちはよく頑張ってくれた。こういう形でタイムリーが続くと、チームとしても勢いが出てくる。打線も少しずつよくなってきたので、これからも期待したい」 連敗ストップを笑顔で受け止めた辻監督だったが、自慢の「山賊打線」がこれで目覚めたのか、と聞かれると「いや、明日を見てからにしてください」と表情を引き締めた。それでも、リーグワーストのチーム防御率を、トータルで16安打を放った打線が補ってもぎ取った勝利は価値がある。 殴られたら殴り返す、昨年までの戦い方に心を痺れさせただけではない。7回以降を平良海馬、リード・ギャレット、守護神・増田達至でパーフェクトに封じるなど、終盤でリードを奪えば完璧なリリーフ陣がスタンバイしている今年のチーム体制も、あらためて目の当たりにすることもできた。 単独首位に立った福岡ソフトバンクホークスとのゲーム差は8のままだが、シーズンはまだ3分の1あまりを終えた段階だ。逆転でのリーグ3連覇へ。反撃への狼煙をあげた王者は、育成からはい上がってきた若き山賊を切り込み隊長にすえて、さらなるパワーアップを果たそうとしている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)