「同じ人間なのになぜ?」障がい者の平均月収が1万円に満たない実態から生まれた久遠チョコレート「創業当初は毎日100円のミートボールを食べて」
チョコレートは、パンにくらべると商品として単価が高いし、保存がききます。しかも、一度固まっても温度を上げて溶かせば、何度でもやり直すことができる。パンや料理は、「食材の時間軸」に人が合わせる必要がありますけど、チョコレートは「人の時間軸」に合わせてくれる。その点でもチョコレート作りは、障がい者が働く場として適しているんです。 ──「久遠チョコレート」のスタートですね。 夏目さん:2013年、小さい工房を借りて、障がいのあるスタッフとチョコレート作りを始めました。最初は野口さんから仕事を回してもらいました。1年ほどたったころ、京都で障がい者の就労支援事業をするNPO法人に声をかけてもらって、京都市内の商店街にチョコレート店をオープンすることになったんです。このとき、「久遠(くおん)チョコレート」というブランド名を決めました。久遠チョコレートの主力商品のテリーヌチョコレートも、このときに考案しました。今は150種類以上のフレーバーがありますが、当初は6種類からスタートしました。
2014年12月にオープンしたこの店が、久遠チョコレートのフランチャイズ1号店です。2016年に豊橋市に本店をオープンさせて、今は全国に40店舗60拠点を展開しています。 ── 障がいのあるスタッフはどれくらいいらっしゃるのですか。 夏目さん:736人の従業員のうち、438人が障がい者手帳を保有しています(2024年8月現在)。障がい者だけではなくて、子育て中や介護中、病気などでフルタイムでは働けない人たちが、いろいろな働き方をしています。
── 久遠チョコレートは、見た目の美しさも印象的です。 夏目さん:ぼくらは、一流のチョコレートブランドを目指していきたいと思っています。「障がいのある人が作っているから買おう」だけではなくて、「おいしいから食べたい」「きれいだからプレゼントしたい」と思ってもらえるものを作りたい。ワクワクして手に取ってもらえるように、美しいデザインにこだわることは、お菓子のブランドがあたりまえにやることだと思っています。
PROFILE 夏目浩次さん なつめ・ひろつぐ。「久遠チョコレート」代表。「第2回ジャパンSDGsアワード」で内閣官房長官賞を受賞。著書に『温めれば何度だってやり直せる チョコレートが変える「働く」と「稼ぐ」の未来』(講談社)。 取材・文/林優子 写真提供/夏目浩次
林優子