「人類の利益」のため?故郷奪われた太平洋の人々の今 ビキニ水爆70年、目の当たりにした「終わらない」被害
米国は昨年10月、2度目の協定更新に合わせ、この先20年間で総額23億ドル(当時のレートで約3400億円)の経済支援を合意。ハイネ大統領は一部を被害者の救済に充て、従来の4環礁に加え、アイルックなど9環礁にも配分する方針を示している。だが、アイルック環礁自治体のダンシー・アルフレッド市長は「少なくとも、4環礁が受けてきた分と同等の補償がされなければ公平とは言えない」と不満を隠さない。竹峰は、使い道を決めるのはマーシャル政府であり「米国が認定範囲を広げたとは言えない」と強調した。 ▽求められる援助を 認定外地域には病院もなければ、医師もいない。竹峰は今年2~3月、マーシャル政府の要請を受け、チェルノブイリや福島の原発事故被災者らを支援する兵庫医科大の振津かつみ医師とマジュロ、アイルックを訪問。アイルック出身の約50人の甲状腺を検査した。統計的に顕著な異常は確認されなかったが、数人は経過観察が必要だと判断した。保健省と情報共有し、離島の医療アクセスの改善につなげる計画だ。
核実験から相当の時間がたち、住民らが訴える被害と放射線との因果関係を科学的に立証することは難しい。しかし、竹峰はこう考える。「放射性物質に覆われた場所で暮らさざるを得なかったことだけでも被害と言える。求めている人がいるのならば、援助を届けるべきだ」 それは、長崎で原爆に遭ったと訴えながら被爆者として認められない「被爆体験者」など、他の核被害者にも通じる問題だ。2021年に発効した核兵器禁止条約は、締約国に核兵器の使用や実験で影響を受けた人への援助と、汚染された環境の回復を義務付けている。理念の実現に向けて国際信託基金の創設が検討されているが、議論は緒に付いたばかりだ。竹峰は「当事者の訴えと現場の状況を捉えた制度設計が必要だ」と語った。