「家父長制」は不変なのか?長い歴史から紐解く。世界各地を訪ね歩く科学ジャーナリストの視点
農耕への転換自体も突然生じたわけではなく、長い時間をかけて徐々に行われたとホッダーは話す。人々は野生の動植物と密接な関係をもち、その世話をしていたが、必ずしも植物を植えたり、種を蒔いたり、家畜を飼ったりしていたわけではなかった。 ■女性や子どもたちは屋外労働を期待される 季節や気候によって、狩猟や採集をするコミュニティもあった。しばらく家畜の飼育をしてみたけれど、うまくいかずに考えを変えたコミュニティもあったかもしれない。
穀物の栽培や家畜の飼育に女性が一定の役割を果たしたことは、疑いようがない。そうでなかったと決めてかかるのは、あまり意味がない。 スタンフォード大学の経済歴史学者であるウォルター・シャイデルは、ファラオの時代のエジプトでは、畑でトウモロコシの穂を刈り取っている女性の絵がいくつか見つかっていると指摘する。ヒッタイトや古代ペルシャ、インドなどの文化でも、女性が動物の世話をしていたことが知られているという。
オハイオ州デニソン大学の古典学の准教授レベッカ・フト・ケネディは、古代ギリシャやローマの文学には、羊飼いやヤギ飼いとして働く若い女性の物語がたくさんあると話す。 歴史上、貧しい女性や奴隷の女性、それに子どもたちは屋外労働の担い手として期待されてきた。それは今日まで続く伝統だ。 私はここ10年ほど続けてきた取材旅行で、インドやケニアで農業や肉体労働に従事する女性たちにインタビューを重ねてきた。乳児を紐で背中に縛りつけて働く女性もいた。
国連のデータによると、現在、低所得国の農業労働人口のほぼ半数、そして世界の小規模な家畜業者の半数近くを女性が占めていることがわかっている。女性は体力的に農業労働ができないという考えは、事実に基づいていないのだ。 活動家で学者でもあるアンジェラ・デイヴィスは、アメリカの奴隷制度について次のように書いている。「女性は男性に劣らず有益な労働力とみなされていたため、所有者にとって、奴隷には性別がないも同然だった」。妊婦や乳児を抱えた女性も働くことが期待された。