米国SECがイーサ(ETH)現物ETFを承認
SECによる今回の検討
今回のETH現物ETFの承認は、このビットコイン現物ETFに続く2種類目の暗号資産現物ETFの取引を可能とするものである。 SECは、今回のETH現物ETFの上場承認にあたって、ビットコイン現物ETFの承認に際して行ったのとほぼ同様の検討を行っている。つまり、今回上場承認を申請した取引所が、いずれもCMEとの間で取引監視協定を締結していることを踏まえ、CMEに上場されているETH先物取引と暗号資産交換業者の取引プラットフォーム上で行われているETH現物取引との価格の相関が継続的に非常に高くなっているという事実を確認した上で、過去にSECによる承認を受けたETF等に関するものと同等の価格の透明性やファンドの保有資産の情報開示、市場監視の手続き等が確保されていることを確認し、ETH現物ETFの上場を認めることは投資者保護の観点から問題ないと結論づけたのである。 このSECの検討過程だけを見れば、ETH現物ETFの承認は、ビットコイン現物ETF承認の延長線上に位置する当然の帰結であり、あえて取り上げるほどの話題でもないということになりそうだ。しかし、実は、ETH現物ETFの審査には、ビットコイン現物ETFにはなかった、しかもSECの上場承認リリースでは明示的には全く触れられていない重要な論点があった。それは、ETHがビットコインのようなコモディティ(商品)ではなく「有価証券」ではないのかという論点である。
暗号資産を「有価証券」と見るSEC
SECは、イーサリアムを基盤とした新たな暗号資産(トークン)を組成してETHやビットコイン、更にはドルなどの法定通貨で資金調達を行うICO(Initial Coin Offering)が活発化した2017年から、1946年のハウイ事件判決で連邦最高裁が示した「有価証券」の判断基準である「ハウイ基準」を援用しながらトークンの販売が有価証券の無登録募集にあたるとして摘発を進める方針をとってきた(注4)。 こうしたSECの姿勢に対しては、本来あるべき「ルールによる規制」ではなく予測可能性が乏しく恣意的な「エンフォースメント(法執行)による規制」だとする批判も強い。そうした見方は暗号資産業界関係者のみならず、「クリプトの母(CryptoMom)」の異名をとるへスター・ピアース委員やマーク・ウエダ委員などSECの一部委員によっても共有されている。 しかし、ギャリー・ゲンスラー委員長に代表されるSEC内部の主流派は、暗号資産業界に対する規制に積極的である。とりわけ2022年11月の暗号資産交換業大手FTXの経営破綻とその後の同社経営者の刑事訴追以降、クラーケンやコインベース、バイナンスといった業界最大手クラスの暗号資産交換業者に対する証券法違反を理由とする訴訟提起が相次ぐなど、暗号資産業界への締め付けを強めようとしている(注5)。 GBTC事件判決を受けて長年にわたるSECの方針が大きく転換したビットコイン現物ETFの承認をめぐる動きは、暗号資産業界関係者に大いに歓迎されたが、他方でビットコインと他の暗号資産とは異なるという警戒的・悲観的な見方も根強かった。というのも、SECはビットコインについては、過去一貫してコモディティ(商品)であり有価証券ではないという姿勢をとってきたのに対し、ETHを含むビットコイン以外の暗号資産に対する見方は必ずしも明らかではなかったからである。 実は、ETHについては、SECの幹部が「少なくとも現在のETHは有価証券ではない」と講演で述べ、暗号資産業界の喝采を博したことがある(注6)。もっとも、それはあくまで当時の幹部職員の私的な見解の表明に過ぎない。最近のSECの厳しい姿勢からすれば、正反対の結論が導かれる可能性も排除できず、2024年3月には、実際にETHが「有価証券」であることを前提としたかのような調査がSECによって着手されたといった報道もみられた(注7)。 しかし、今回SECは、ETH現物ETFを金(ゴールド)現物ETFなどのコモディティETFを規律する上場規則の改正手続きで上場させるという各取引所からの申請を承認した。これはETFの裏付け資産であるETH現物が有価証券ではなくコモディティであることをSECが認めたものとも解釈することができそうである。 もっとも、これによってSECの暗号資産に対する「エンフォースメントによる規制」が大きく変容するかというと、大いに疑問である。SECのゲンスラー委員長は、先のビットコイン現物ETFの承認にあたって発表した声明文において、SECは暗号資産の上場基準を設けようとしているわけではないし、暗号資産の連邦証券法上の位置づけに関する見方を変えたわけではなく、暗号資産の大部分は有価証券の一つである「投資契約」であり、連邦証券法の規制に服すると明言している(注8)。