「財界の鞍馬天狗」と呼ばれた中山素平、多くの企業救済や再編をけん引したタフネゴシエーターぶり
■ 「鞍馬天狗」とは思えぬジェントルマンの素顔 中山氏はその「しつっこさ」を武器に、粘り強く交渉を続けるタフネゴシエーターだった。相手の腹の内を探り、落とし所を見つけていくのが中山氏の真骨頂。山一證券への日銀特融を決めた「氷川会談」でも、中山氏は田中蔵相の意を読み取り、結論に導いた。 エリートぞろいの興銀の中でも「ミスター」と呼ばれるほどの逸材でありタフネゴシエーター。こう書くと、近寄りがたい人物を想像するかもしれない。しかし実際の中山氏はまるで違った。 筆者は晩年の中山氏に何度か取材する機会を得た。その印象は、とにかくジェントルマン。話す言葉も非常に丁寧で、これが「鞍馬天狗」と呼ばれた男なのかと思うほどだった。 それでいて、当時すでに90代であるにもかかわらず頭脳明晰。昔のことも細部にわたるまで覚えている一方、バブル崩壊後、低迷する日本を憂えてもいた。それでいて偉さをまるで感じさせない。だからこそ多くの人が「そっぺいさん」と親しみを込めて呼んだ。この人こそ「国士」だと感じさせる人だった。その人となりについては、後編で詳しく触れる。 【参考文献】 『運を天に任せるなんて』(城山三郎著) 『勁草の人 中山素平』(高杉良著)
関 慎夫