ペン対応の電子ペーパー端末「QUADERNO」にカラーモデル登場。PDFビューアとしての使い心地は?
富士通クライアントコンピューティングの電子ペーパー端末「QUADERNO(クアデルノ)」に新たにカラーモデルが登場した。従来と同じくA4とA5の2サイズ展開で、カラーのE Ink電子ペーパーを搭載していることが大きな特徴だ。 【画像】縦向き利用を前提としたデザインだが横向きでも利用可能 手書きでノートを取るのが主用途となる本製品だが、PDFが扱えることから、自炊データを始めとしたPDFフォーマットの電子書籍の閲覧にも対応する。今回はメーカーから借用したA4モデルについて、電子書籍ユースを中心とした使い勝手を、13インチiPad Pro(M4)と比較しつつチェックする。 ■ カラー対応以外は従来モデルほぼそのまま まずは従来のモノクロモデル(QUADERNO A4(Gen. 2)/FMVDP41)と比べてどこが変わったのかを見ていこう。 これを見る限り、E Ink電子ペーパーがモノクロからカラーになったことを除けば、違いはほぼ皆無と言っていい。 細かいところでは、BLE対応でBluetoothフットペダルの対応機種が増えていたり、お気に入り機能が追加されて特定のノートを呼び出しやすくなったという違いはあるが、見た目のデザインも同一で、本製品の売りである薄さと軽さについてもそれぞれ5.7mm、368gと同一だ。 対応フォーマットも従来と同じくPDFのみ。独自OSで動作し、アプリの新規インストールが行なえないといった製品の性格にも違いはない。タブレットではなくあくまでも手書きに対応した電子ノートという位置づけだ。ホームに相当する画面がなく、本体上部のホームボタンを押して表示されるメニューが、ホームという扱いになる。これも従来モデルと同じだ。 付属のスタイラスについても長さと直径、重量が同じなので、同一のものと見られる。ケーブルなど付属品も共通している。ちなみに同時発売のA5モデルについても、画面サイズの関係で解像度が相対的に高いことを除けば、機能面の違いはない。 ■ 軽さと薄さは健在。PDF転送は面倒さが否めず 利用にあたってのセットアップは、実質的に付属のスタイラスのキャリブレーションのみ。Wi-Fiの設定すらなく、またPCとの接続もオプション扱いとあって、あっという間に完了する。E Inkのカラー化によって新たに追加されたフローもない。 さて本製品の最大の特徴はなんと言ってもその軽さだ。13.3型で公称368gというのは、同等サイズのiPad Proよりも約200g軽い。同等サイズのiPadやBOOXと比べた時の強みの1つだ。 またボディの厚みも5.7mmしかなく、さらに端に行くにつれて薄くなるデザインを採用していることから、手で持った時はスペック以上に薄く感じられる。バッグの中に入れる時、書類の間に挟んでしまうと、どこに行なったか分からなくなってしまうほどだ。 なお本製品はベゼルと画面の間に段差もなく、書類と積み重ねると画面にモロに触れ合うことになるので、持ち歩く時はスリーブケースを用意して画面を保護することが望ましい。パッケージには付属していないので、自前で調達する必要がある。 PDFの転送は、PCに専用アプリをインストールした後、本製品とPCをUSBケーブルで接続し、専用アプリにドラッグ&ドロップして転送する。アプリのインストールが必須なのに加えて、有線接続が必要であるなど、00年代前半に先祖返りしたかのようだ。せめてケーブルをつなぐだけでストレージとして認識できてほしいところだ。 一方でスマホからであれば、専用アプリこそ必要になるものの、NFCを使ってスムーズにPDFを転送できる。どちらかというとPCよりもこちらのほうが直感的で、スマートに使える印象だ。ただし大量のPDFを転送する場合は、やはりPC経由で有線で転送したほうがスムーズだろう。 ■ 基本操作は問題なし、彩度の低さとパフォーマンスがネック さて本題、電子書籍ユースでの使い勝手を見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最終号の、それぞれPDFデータを使用している。 本製品で表示可能なフォーマットはPDFに限定される。そのため電子書籍ストアで販売されている一般的な電子書籍は利用できず、自炊データを始めPDF形式の電子書籍のみが表示の対象となる。 基本操作としては、ページめくりは左右のスワイプで行なえるほか、上から下へのスワイプでページリフレッシュが行なえるので、残像が気になればすばやくドラッグして消去でき、表示まわりのストレスは少ない。ちなみに本製品ではタップはオプション表示に割り当てられているので、タップによるページめくりには非対応だ。 なにより13.3型という大画面ゆえ、雑誌を原寸サイズで表示できるのは強みだ。さらに重量は約368gと、本製品とほぼ同じサイズの13インチiPad Proよりも200gほど軽いので、長時間保持しても手が疲れない。言い方を変えると、どんなに厚みのある雑誌でも、本製品を使えば368gに収まるので、バックナンバーを大量に持ち歩くのにも適している。 そんな中でネックになるのは画面の発色だ。本製品はカラーで表示できるのが最大の売りだが、現行のカラーE Inkは彩度が低く、比較対象となる13インチiPad Proのような有機ELと比較すると、どうしても鮮やかさの面で不利だ。 特に市販のカラーE Ink搭載デバイスでは、フロントライトを用いることで地の色を白く見せる工夫が一般的だが、本製品はフロントライトそのものが非搭載なので、全体的に暗く見えてしまう。 カラーE Inkの世代自体はおそらく他社製品と変わらないはずだが、フロントライトがないせいでポテンシャルを生かしきれておらず、少々もったいなく感じる。 また解像度については、モノクロとカラーで異なる解像度(モノクロ207ppi、カラー103ppi)という、昨今のカラーE Inkに共通する仕様で、カラーはベタ塗りはそれほど気にならないものの、細かいディティールを描写するのが苦手だ。図版ではなく写真が多いコンテンツは要注意ということになる。 なお本製品はE Inkの濃淡などを調整する機能もないので、どれだけ見やすいかはPDF側のクオリティでほぼ決まってしまう。スキャンデータでも200ppiなどの低解像度だと、かなりぼやけたように表示されるほか、一定の品質を持つPDFでも、細い線の描写は苦手だ。 一方で本製品は、本体を横向きにしての見開き表示にも対応する。右綴じ左綴じの切り替えや、ページ送りの方向の切り替えも可能なので、PDFデータ側でそれらが適切に指定されていなくとも表示できる。コミックは見開きにするとおおむね単行本と同等サイズになるので、原寸表示にこだわる人にとっては魅力的だろう。 ほとんどのページがモノクロであるコミックを、カラーE Inkで表示する必然性はあまりないように思えるが、それでも表紙や口絵などで、カラーページがカラーであることがきちんと分かるのは、ストレスがなくてよい。もう少し発色がよければ……というのはもちろんあるが、少なくともカラーE Inkであることによるマイナスはない。 なお注意したいのは、見開き表示では、ページめくりの速度が著しく低下することだ。これは見開きでページをめくった場合、まず片方の1ページを表示し、続いてもう片方の1ページを表示するといった具合に、順番に処理が行なわれるためだ。CPUパワーに制限があり、こうした挙動にならざるを得ないのだろう。 そのため見開き表示をメインに考えているのであれば、本製品の利用には慎重になったほうがいい。むしろ見開きはあきらめ、本製品ではなくA5モデルを選んで単ページ表示で読書したほうが、処理速度の部分でストレスを感じずに済む。 どうしても見開きにこだわりたい場合は、先読みの設定も試してみたい。これは見開き表示のうち1ページずつを先読みして入れ替えていく機能で、便利と感じるか否かは人それぞれだろうが、もっさり感が我慢できない場合の1つの解ではある。このあたり、どんなPDFをどのように表示するかによって、本製品への評価は大きく変わってくるだろう。 ■ ベーシックなノート機能を搭載 本連載の主旨からは外れるが、メイン機能であるノート機能もざっとチェックしておこう。本製品の画面上部のメニューにある「ノートを作成する」をタップすると、テンプレート選択の画面が表示される。そこから適切なテンプレートを選択すれば新規ノートが表示され、付属のスタイラスを使ってメモを取ることができる。 ノート機能は、文字をテキスト化したり図形を挿入するなどの機能こそないが、ペン先の種類や太さは自由に選べ、また色分けもできるなど、手書きメモとしての初歩的な機能は一通り揃っている。 従来のモノクロモデルでは、カラーのペンであっても画面上ではすべてグレー表示で、書き出して別デバイスで表示するまで色が分からなかったことを考えると、本製品は大きく進化している。 ただしカラーは解像度が低いこともあり、モノクロに比べると線のギザギザさが目立つ。細かい文字を書く場合、ペンの色は基本的に「黒」を使い、カラーの利用はマーカーなどに留めるべきだろう。 また本製品はそもそも細い線の表示はあまり得意ではないので、最終的に外部に書き出すにしても、ノートを取る場合はなるべく標準より1段階太めの線を使ったほうがベターだろう。 ■ 価格的には大健闘。A5モデルも候補に入れたい 以上のように、画面サイズの大きさとボディの薄さ軽さに加えて、カラー表示が可能になったのはやはり大きい。発色の問題などは今後の進化を待たなくてはいけないが、それでも画面に色がつくというだけで、表現力は格段に向上しており、一度使ってしまうとモノクロの従来モデルに戻るのは難しいだろう。 ただし複数のカラーE Inkデバイスを見てきた筆者に言わせると、フロントライトが非搭載なのはやはりハンデだ。本製品はノート利用がメインであり、設計を変更してまで画面の白さにこだわる必要はないという判断だろうが、個人的にはバッテリ駆動時間を多少削ってでも搭載すべきだと感じる。後継モデルではそれらの見直しと、併せてパフォーマンスの向上も期待したい。 実売価格について7万9,800円と、従来のモノクロモデルがここ2年ほど5~7万円のレンジで販売されていたことを考えると、かなりがんばっている印象だ。どうしても価格的に厳しい場合は、画面サイズがひとまわり小さいA5モデルが5万9,800円で販売されているので、そちらを狙うという手もある。 iPadなどのタブレットはここのところ価格の上昇が著しいので、ノート機能に特化し、さらにPDFの表示も可能なデバイスとして、本製品の今後には注目していきたい。
PC Watch,山口 真弘