自死の道を選んだ「就職氷河期世代」の夢と現実、36歳で早逝した早稲田OBに何が起きたのか
孤独死や陰謀論が社会問題化している。その背後にあるのが、日本社会で深刻化する個人の孤立だ。『週刊東洋経済』11月16日号の第1特集は「超・孤独社会」だ。身元保証ビジネスや熟年離婚、反ワク団体など、孤独が生み出す諸問題について、実例を交えながら掘り下げていく。 2人の早稲田OBの現在 江戸時代から宿場町として栄えてきた東京都足立区の北千住。今でも下町風情を感じるこの街に、36歳で早逝した、一人の男の墓がある。男の名は、岩井聡輝。筆者と同時期に早稲田大学を卒業した。
岩井は政治思想に詳しく、多様な人間たちがつくり上げる共同体の可能性を信じていた。後輩からも慕われる優秀な岩井を「大成する」と固く信じていたのは筆者だけではない。しかし、彼は2019年の1月、自死の道を選んだ。 この秋、民家に囲まれた墓地の一角にある岩井の墓を訪れた。墓前には缶ビールが3本置かれていた。私も、ヱビスの缶ビールと仏花を供え、手を合わせた。自分用に持参したノンアルコールビールを口にしたら、こんな思いが湧いてきた。「なぜ日本社会は岩井の才能を生かしきれなかったのか」。
■転機は就職活動 彼はいったい何に悩み、苦しんでいたのか。早稲田を卒業した後も岩井と連絡を取っていた者たちに話を聞いてみることにした。快活だった岩井が苦悩し始めた1つの転機は、就職活動だったようだ。 就職氷河期世代とは、バブル経済が崩壊し新卒採用枠が激減した時期に就活を経験した世代を指す。一般的な定義では、1993年から2004年に大学・大学院の卒業・修了を迎えた世代とされる。岩井と筆者は、就職氷河期世代の中心層から少し外れている。
ところが、世界的な金融危機リーマンショックが起きた2008年以降の数年間、一時回復していた就職率は「氷河期逆戻り」と呼ばれるほどの低水準に落ち込んだ。そのため、ちょうど筆者が就活をしていた時期には、「100社近く履歴書を送っても、面接で落ちまくり1社も内定をもらえなかった」など就職氷河期と酷似する悲惨な経験談を聞いた。 ■心労に気づけなかった かくいう筆者も入社試験を受けたほとんどの会社で不採用となった口だ。不採用通知を受け取るたびに「社会で必要とされていない人間」と烙印を押されたような気持ちになり、就職戦線からは途中で離脱した。人生の路頭に迷いかけたとき、東日本大震災が発生し、海外の報道機関で働く機会を得た。実力で職を得たのではない。すべては人との縁と偶然のおかげだ。