自死の道を選んだ「就職氷河期世代」の夢と現実、36歳で早逝した早稲田OBに何が起きたのか
「岩井くんは彼女もいたし、孤独を抱えているとは感じなかった。でも、最後に話したときに岩井くんが『死に対する恐怖はない』という主旨の発言をしていたことは今でも記憶に残っている」 そう話すのは11年かけて早稲田を卒業した加藤志異だ。加藤は常人には理解しがたい「妖怪になる」という夢を抱いている。当初は周りに嘲笑された荒唐無稽な夢だったが、15年近く言い続けたら次第に定着し、今では多くの人に「妖怪・加藤」と呼ばれるようになった。
卒業後は、契約社員や絵本作家としての活動で食いつないできた。今は、リンゴの行商で主な生活費を捻出している。離婚も経験し、今でも生活は楽ではない。だが、加藤にはどんな苦境も前向きに捉えるメンタリティーがある。 ■声をかけてくれる人 そんな加藤でも現在の境地を見いだすまでには、どん底まで落ち込む時期が幾度もあった。だから「岩井くんの心情も想像できる」という。浪人生活、就活、そして「妖怪を目指すべきか」と本気で悩んだとき。自尊心が低くなりかけると、そばにいる誰かが加藤を肯定し、そっと後押ししてくれた。
妖怪・加藤はこう訴える。「社会から切り離されたと感じたら、人間は弱くなる。重要なのはお金や地位、収入だけではない。いろんな評価軸があっていい。人生に迷ったとき、『大丈夫だ』と声をかけてくれる人がいるだけでも、心は救われるはずだ」。 有名な大学を卒業しようと、正社員になろうと、充足感に満ちた人生が待っているとは限らない。人の心を救うのは、結局のところ、人とのつながりなのではないか。 取材後、最近疎遠になっていた早稲田時代の友人を食事に誘ってみた。都内で独身生活を送っている沖縄県出身の彼はこう話し、表情を緩ませた。
「落ち込んだ時期もあったけど、今はちょっと元気になった。連絡、ありがとう」 =敬称略=
鈴木 貫太郎 :ジャーナリスト