文化起業家、M&Aという選択を赤裸々に語る。着物のアップサイクルを持続的成長へ
静脈産業の課題とビジネスの親和性
■文化x異業種が生み出すシナジー 事業譲渡先は、神奈川県小田原市に拠点を置く小田原衛生グループのゼロワン。一般廃棄物や産業廃棄物の収集運搬や上下水道設備の施工維持管理などが主業だが、遺品整理や生前整理などの会社もグループに置く。そのなかで、ゼロワンはグループ5社の経営管理業務を束ねて行いつつ、新規事業も企画立案していく部隊の位置付けだ。 元々は新規事業におけるアライアンスを求めて、小田原衛生グループからRelier81に問い合わせがあったが、田尻が経営的な課題感を相談するなかでM&Aに発展していった。グループとしても、複数の事業譲受経験があったことから、アライアンスで事業を後押しするよりもM&Aの方が事業推進の可能性が高まると判断した。 小田原衛生グループの鈴木大介社長は「小田原衛生グループが関わってきた事業とRelier81の事業は表向きはまったく別の業種であっても、地球規模の課題に正面から向き合うという意味で本質的には同じだと考えています。このM&Aによって、両社に関わる人々にこれまでと違った視点や価値観が生まれ、新しい事業展開に繋がっていくでしょう」と語る。 譲渡先がアパレルではない点が意外に思えるが、田尻も「グループでは、リサイクルや生前・遺品整理の事業もされており、廃棄される不要な着物や帯の課題をよく知っており、Relier81にとっても親和性やシナジーがあると感じています」と明かす。 同グループ取締役CSO最高戦略責任者兼CAO最高総務責任者の山崎剛一は「資源循環の取り組みの多くは、循環コストがかかる割にヴァージン品よりも安価で取引される事例が多く、一般的にそのような認識で流通している点が、持続可能な社会を目指す上で静脈産業の課題」と指摘する。「Relier81のアップサイクル事業は、そんな課題を乗り越えていけると考えます。また業界の一面に留まらず、日本の伝統文化を次世代に繋ぎ、世界に向けて魅力を発信していくという、田尻さんの思いや情熱に賛同しました」と語る。 FAとして関わったGOZENの布田は「文化的価値の高いプロダクトが、資本の支えで大きく拡大する可能性がある事例。感性至上主義のような小商いでもなく、効率性や収益性のみを追求するパーパス不在のビジネスでもない、これからの商売のあるべき姿のひとつだと考えています」と語る。 布田によると、文化起業家やクリエイターのなかでは「やりがいドリブンで起業・クリエーションを行い、ライフステージの変化に合わせてM&Aで収入や安定も担保する、第三のライフキャリアの選択肢」が普及し始めているという。また企業側にとっても「安定した本業や豊富な資金力を有する地場の有力起業にとって、本事例のように新規事業と起業家人材を獲得する有力な手段となる」と見ている。 事業譲渡は11月1日の予定。引き続き、田尻がRelier81のブランドファウンダー兼事業推進責任者として関わる。また拠点も変わらず、京都のままだ。今後は「経営面をバックアップされることにより、自分自身はブランドを拡大していくための営業や広報、クリエイティブ、新たな事業開発に全ての力を注ぎたい」と意気込む。 グループイン後、田尻はこんな構想を描く。「日本の伝統をアップサイクルして新しい形にして使う魅力を伝え、大切な人の着物や帯を次世代へと繋いでいきたいです。今後は職人の技術の承継も含めて、職人との協業体制の強化をして、世界に発信できるプロダクト開発と展開を考えています」。
督 あかり