文化起業家、M&Aという選択を赤裸々に語る。着物のアップサイクルを持続的成長へ
「文化で稼ぐ」を打ち出し、新しいビジネスや価値を生み出す「カルチャープレナー」たち。昨年開かれた第1回目の本誌カルチャープレナーアワード受賞者で、京都で着物や帯を使ったアップサイクルブランド「Relier81」代表の田尻大智もそのひとりだ。 受賞から1年、田尻は持続的に事業成長をしていく戦略を考えるなかで、M&Aという選択を選ぶことになった。アパレルブランドとのコラボレーションも豊富だが、譲渡企業は意外にも生活静脈であるインフラ維持管理を手がける企業だという。 なぜこのような選択をしたのだろうか。M&Aに至るまでの決断の背景を赤裸々に語った。 ■「文化で稼ぐ」という決意 「昨年、カルチャープレナーに選出されて背筋が伸びる思いでした。文化で稼ぐというキャッチコピーが心に刺さり、事業性を無視せずにしっかりと着物の良さを伝承・継承していきたいと強く思う1年でした」と田尻は振り返る。 2018年5月に個人事業主としてRelier81をスタート。着物のアップサイクルブランドで「海を渡る」目標を掲げ、創業期にはフランスやイタリアでの出展にも果敢に挑戦した。着物の帯でつくるサンダルは技術的に難しく、そのデザイン性もアパレルのバイヤーや百貨店の催事担当者の目にとまり、「UNITED TOKYO」とのコラボレーションや「BARNEYS NEWYORK」での取り扱い実績も積んできた。 ブランドとしては順調な展開にも思えるが、認知度が徐々に広がるなかで、田尻は経営体制に不安や課題も感じてきた。 「メディアや取引先の皆様に、着物や帯のアップサイクルの取り組みや商品への評価をいただけているものの、個人ベースの運営基盤が不安定で、チャンスに対してアクセルを踏み切れていないというギャップを埋めたいと思いました」 ■「ソーシャルM&A」との出会い ただ、最初からM&Aという選択を考えた訳ではない。一般的なスタートアップと同様に、金融機関からの借入やエクイティによる資金調達が最初に思い浮かんだが、伝統文化に関わるなかで急速に事業をスケールさせていくようなイメージもしづらかった。 「銀行融資の場合、資金的なサポートはあるものの、運営面の不足点は補えないと感じました。またVCも、社会性の高い事業を行うRelier81の取り組みや規模感とはフィットしないと感じました」 そんななか起業家の知人を通じて、ソーシャルビジネスやスモール・ビジネスに特化したM&A仲介を手がけるGOZEN代表の布田尚大と出会う。M&Aにおいて助言業務を行うFA(ファイナンシャル・アドバイザー)の立場で関わった。 「日本の伝統・文化に関わるカルチャープレナーたちは、小さく起業するケースも多いと思います。持続的に事業成長を続けていく一つの出口戦略として、布田さんとの出会いによってM&Aという選択肢にも魅力を感じるようになりました」と田尻は振り返る。