誰がいったい何のために開発?「シグナル」闇バイトに悪用されるアプリの正体、意外と古いその“歴史”
マーリンスパイク氏はこの金を元手に、冒頭のオープン・ウィスパー・システムズという非営利団体を立ち上げ、そこで開発した暗号化技術などの通信ソフトを誰もが自由に使える「オープン・ソース」として提供する道へと踏み出した。 この団体はアルジャジーラ関係者らから約50万ドルを寄付されるなど、総額数百万ドルの資金を集め、これによって十数名のソフト開発者を採用。彼らはマーリンスパイク氏を中心に、かつて同氏が開発して高い評判を得た「TextSecure」と「RedPhone」という暗号化ソフトを進化・合体させ、2014年に「シグナル」と呼ばれる秘匿性の高い通信ソフトを開発するに至った。
シグナルは当初、iPhone向けのアプリとしてリリースされた。が、マーリンスパイク氏はより多くのユーザーにこの通信ソフトを使ってもらうため、当時若者を中心に人気のあったメッセージングアプリ「WhatsApp」の共同創業者ブライアン・アクトン氏らに働きかけ、シグナルの技術をWhatsAppに組み入れることに成功した。 これによってシグナルの利用者数は一挙に10億人以上へと膨れ上がったが、実は当時WhatsAppのユーザーらはそれに気付くことはなかった。つまり無意識のうちに、こうした高度な暗号通信ソフトを使っていたことになる。
それから間もなくWhatsAppはフェイスブックに約190億ドル(約2兆円)で買収され、メッセージングアプリやSNSの基盤技術としてシグナルは数十億人ものユーザーから使われるようになる。 ■あのスノーデン氏からもお墨付き 一方で、「シグナル」という独立した通信アプリとしても提供され、それは当時エドワード・スノーデン氏から「私は普段のコミュニケーションでシグナル以外は使わない」というお墨付きをもらったほどである。
スノーデン氏は2013年にアメリカのNSA(国家安全保障局)がグーグルなど巨大IT企業とともに世界中のインターネット利用者を監視していた「プリズム」と呼ばれるプログラムを暴露したことで一躍有名になった。同氏に高く評価されたことから、シグナルは暗号化など秘匿性の高い通信ソフトとしての評判が確立された。 ところが2018年、イギリスの選挙コンサルティング会社「ケンブリッジ・アナリティカ」がフェイスブックから100万人以上の個人情報を不正に取得し、2016年のアメリカ大統領選挙や、イギリスのEU離脱(ブレクジット)を問う国民投票などで有権者へのターゲット広告に悪用していたことが発覚した。