誰がいったい何のために開発?「シグナル」闇バイトに悪用されるアプリの正体、意外と古いその“歴史”
このため、後から警察など政府機関がシグナル財団に利用者情報などの提供を求めたとしても、原理的にそれに応じることはできない。提供したくても情報は残っていないからだ。 これら高度なセキュリティ技術と徹底した利用者保護の姿勢が評価され、シグナルは世界中のジャーナリストや人権団体、あるいは独裁国家における反体制派や一部の政治家らが秘密情報をやりとりするために利用している。 だが、一方でシグナルはテロリストや麻薬密売人など犯罪者間の連絡、あるいは児童ポルノ画像の共有などさまざまな悪事にも利用されている。今回の「闇バイトによる強盗」事件もシグナルが悪用された典型的ケースと言えるだろう。
これらを憂慮して、政府関係者の中には「シグナルのプライバシー(利用者)保護は行き過ぎだ」と考えている人は少なくないようだ。「エンドツーエンドの暗号化」など技術面はとにかく、「メタデータの消去まで踏み込む必要はあるのか?」ということだ。 シグナル財団がここまで徹底して利用者あるいはその個人情報を保護しようとする背景には、いわゆる「監視資本主義」あるいは「国家・企業監視」など昨今の産業界を取り巻くトレンドがある。
これらはグーグルやフェイスブックなどIT企業が大量の個人情報を取得し、それをベースにターゲット広告を打って巨万の利益を稼ぎ出すことや、あるいはそれらのIT企業が政府の要求に応じてユーザー情報を提供したりすることーーたとえば、かつてスノーデン氏が暴露した「プリズム」など、政府と企業が共同で国民らを監視するプログラムーーを指している。 ■プライバシー保護の姿勢はイデオロギーの領域 このように個人のデータが商業的に利用されたり、政府から不当に監視されたりすることがないよう、シグナルは徹底したプライバシー保護の体制を敷いていると見ることができる。それは強固な信念、あるいはイデオロギー(政治信条)の域に達しており、その分だけ融通が利かない。