地獄化する京都の「観光公害」 地価高騰で子育て世代が続々流出、渦中の「宿泊税」は本当に抜本的対策になるのか?
宿泊税の導入と課題
こうしたなかで、多くの自治体が導入しているのが宿泊税だ。宿泊税とは、一定額以上の宿泊料金に対して課税される地方税で、その税収は ・観光振興 ・オーバーツーリズム対策 に充てられる。日本では、2002(平成14)年に東京都が導入して以来、大阪府や京都市など、観光客の多い自治体で次々と導入されてきた。2023年には長崎市、2024年には熱海市でも導入が決まっており、広島県や浦安市なども検討中だ。 ただし、宿泊税には課題がある。まず、日本の法律上、 「外国人のみ」 を対象とした宿泊税を設けることはできない。日本が各国と結んでいる租税条約では、外国人のみに税金を課す差別的な制度を禁じているからだ。また、宿泊者が観光客か定住者かを判別するのも煩雑で現実的ではない。そのため、宿泊税は国籍に関わらず、全ての宿泊者に一律に課税されることになる。つまり、日本に住む人からすれば、外国人観光客のために 「なんでわれわれまで税金を払わされるハメになるのだ」 というわけだ。そこで、大阪府が検討しているような、宿泊施設以外でも外国人と日本人で料金を変える「外国人料金」の設定が浮上したわけだ。 諸外国では、自国民や地元民と外国人観光客で異なる料金を設定している例が数多くある。例えば、正規料金を設定した上で、自国民や定住者には割引料金を適用するなど、外国人観光客により多くの負担を求めつつ、「差別ではない」と説明づける巧妙な手法が用いられている。ニューヨークのメトロポリタン美術館では、入場料を「寄付」と位置づけ、ニューヨーク州民や近隣州の学生、12歳以下の子ども以外は、寄付を義務化する仕組みを取っている。 しかし、これらはあくまで民間施設が独自に行っている料金設定だ。外国人からの料金徴収を行う国は増えてはいるものの、その大半は宿泊料金に上乗せする方式にとどまる。自治体が管轄する広い範囲で、宿泊施設以外にも外国人料金を導入するとなれば、徴収の仕組みは極めて複雑になり、現実的ではないからだ。 事実、日帰り客への入島税を導入したヴェネツィアなど、ごく一部の例外を除けば、自治体による外国人料金の導入例はほとんどないのが実情なのだ。