瞬間最高視聴率は“驚異の55.9%” 中嶋聡オリックス前監督の大一番「小林の14球」を振り返る【日本シリーズ伝説の一戦】
最強のバッターを迎えて
シリーズを前に、テレビや新聞の取材に対し、野村氏はこう繰り返した。 「イチローの弱点は、インハイ。内角高めを攻めて行けば間違いない」(同) この“口撃”が功を奏し、初球からインハイを投げると思いこませ、巧みな配球でイチロー氏を抑えることに成功する。 〈こちらの打者では、オマリー、池山(隆寛)が頑張ってくれた印象だ。オマリーなど、4番としてマークされていたこともあるが、7四球を選んだうえ9安打で、なんと打率.529だった(*うち2本塁打で、同シリーズMVP受賞)。〉(同) まさに、オマリー氏(63)にやられたシリーズとなったわけだが、その強打者を見事に抑えた名場面が第4戦、延長11回にやってくる。 10月21日にグリーンスタジアム神戸で開幕したシリーズ。この年から全試合ナイターでの開催となり、ここまでオリックスは3連敗。しかも第4戦は3試合続けての延長戦となっていた。ヤクルトは本拠地・神宮で日本一を決めたい、対するオリックスは何としても神戸へ戻り、第7戦まで戦ってファンや被災者たちを喜ばせたい……。 延長11回裏。1死1.2塁となったところで、打席は4番のオマリー。ここまで3打数1安打と好調だった。神宮球場につめかけたヤクルトファンはサヨナラ・日本一を期待していた。10回裏からマウンドに立つのは、3年目の小林宏(53・現オリックス育成チーフコーチ)。第3戦では2番手で登板しながら1球でヒットを打たれ、降板している。この日は5番手で登板して、大一番を迎えることになった。 「双方のスコアラーがシリーズ前に集めたデータから、オマリーは“初球には手を出してこない”、小林は“球威のある直球がメイン”と分析していたそうです。試合を決定づけるかもしれない重要な場面ですが、小林は“同点の場面で使ってもらえるなんて有難い”、中嶋さんも“やってやろうと思った”と、後に語っています」(スポーツ紙ベテラン記者) 1球目。インサイドにスライダーでストライク。データ通り、オマリーは手を出してこない。2球目、同じところへストレート。これもオマリーは見送ってストライク。バッテリーは2球でオマリーを追い込んだ。 「オマリーの強さはここからでした。3球目もインコース低めのきわどい所にいきましたが、オマリーはしっかり見送り、ボールに。中嶋さんは後の取材で、“2球で追い込んで、やっとイーブンになったと思った”と語っています。やってやろうと思いながらも、冷静だったのでしょう」(同) 現役時代の中嶋氏のリードは、打者の不得意なコースを狙うより、投手の得意な球を投げさせて勝負することが多かったという。この場面もまさにそうだった。 試合が延長に入り、時間も午後10時を越えた。鳴り物入りの応援は自粛されることになり、1球を投じるたびにスタンドから歓声があがる。4、5、6球目と続けてファール。そして第7球のストレート。 「入ったと思いました。ライト方向への大きな当たり。これは決まったと思いました」(同)