1年常温保存OKのミートボールも 引き算で食材磨く 石井食品「イシイのおべんとクン ミートボール」(下)
サッカーの中田英寿氏も「ミートボール愛」隠さず
幼い頃から食べ続けてきた長年のファンが多い。イタリアのサッカーリーグ「セリエA」で日本人として初めて優勝メンバーとなった中田英寿氏もその1人。1998年にペルージャへ移籍した当初から「ミートボール愛」を隠さなかった。 子ども向けの弁当が「定位置」のイメージがあるが、近年は「男性が家飲みのつまみに選ぶケースが増えている」(古屋氏)。ビールにもワインにも合う万能タイプのバイプレーヤーだ。 「サイズが小さくなった」とう誤解も、子ども時代の記憶があればこそ。ロングセラーならではの勲章とも呼べそうだ。 食品の値上がりが止まらない。長く価格を据え置いてきた「イシイのおべんとクン ミートボール」も2022年10月にそれまでの税抜き120円から同140円に値上げした。 しかし、100円台の割安感もあってか、売れ行きが大きく鈍るような動きは起きなかった。代わりが見当たらないような、弁当や食卓での安定感も「おべんとクン離れ」が起きにくかった一因だろう。
生産者・地域とのつながりを重視
全国的に知られたブランドだが、工場に比較的近いエリアの食材を用いているので、実は工場ごとに食材などの違いがある。現在の工場は八千代工場(千葉県八千代市)、京丹波工場(京都府京丹波町)、唐津工場(佐賀県唐津市)の3つだ。 「地域とのつながりを重んじて、食材調達に努めている」(古屋氏)。地元の生産者と連携を深めることはトレーサビリティー(生産履歴の追跡)の面でも意味が大きい。石井食品が導入している品質保証番号システムの実現には生産者側の協力が欠かせない。 近年はアニマルウェルフェア(動物福祉)を求める消費者の意識が高まっている。食品企業も例外ではない。 唐津工場で使っている佐賀県産の「骨太有明鶏」は、全飼育期間にわたって抗菌性物質を含まない飼料で育つ。有明海産を中心とした、カルシウムに富むカキ殻を食べさせているので、骨が丈夫だという。 抗菌性物質が不要なのは、「骨太の健康な有明鶏だから」(古屋氏)。八千代工場、京丹波工場でも抗菌性物質を使わない鶏肉への変更を進める方針だという。 飼育環境への関心が高まっている。八千代工場で使っている岩手県産の鶏は光が差し込む開放鶏舎内の運動できる環境で育つ。ひなの生産から食肉の加工まで自社で一貫管理しているのも品質と安全性を裏付ける。 3つの工場が地元とのつながりを深めることによって、「地域限定の商品を企画しやすくなる」(古屋氏)という利点もある。大人向けに企画したミートボールでは過去に「名古屋の味噌煮込み風ソース」「高知県産生姜の生姜焼き風ソース」「大阪のお好み焼きソース」を相次いで、西日本限定で売り出した(現在は販売終了)。 トマトソースがスタンダードだが、「あっさり塩味」「照焼味」「カレー味」など、ソースのバリエーションが多彩だ。子どもが食べ飽きるのを防ぐのにも役立つ。 原材料を磨き上げ、食品添加物を遠ざけ、情報公開に努める。石井食品が示すのは、食品メーカーに望まれる食べ物作りへの取り組みだ。家計にやさしい価格設定も子育て家庭をリアルに支える。 食べ物から最も影響を受けやすい子どもたちと、その家庭に寄り添う姿勢はヒューマンで誠実に映る。子育て世帯の「キッチン課題解決」に手を抜かない石井食品は2025年に創業から80年の節目を迎える。日本が誇る「弁当文化」を通じた消費者との伴走は4世代目に続いていきそうだ。