神宮で不運に泣くも抜け球が減り死球はゼロ…なぜ阪神の藤浪は新しい投球スタイルを見せることができたのか?
藤浪の何がどう変わったのか? この試合を神宮で解説した阪神OBである評論家の池田親興氏は、こう分析した。 「かわいそうだったな、というのが第一印象。でも、ニュースタイルのきっかけをつかむ登板になったのではないか。ヤクルトの高橋も好投。0-1の展開で緊張感と集中力が高まり藤浪のレベルも一歩引き上げられた。ローテーを守る力が十分にあることを証明した。今日も、点を取ってもらい、北條がちゃんと守っていれば勝ち投手になれていた。1、2回は、ストレートで押したが数球抜けていた。意識的かどうかわからないが、ストレートがシュート回転で動いていた。そこが気になったのか、ふた回り目からスライダー(カット)、フォークの変化球を軸にした配球の組み立てに変え、ヤクルト打線は対応することに時間がかかった。左打者を並べられ逆球も多かったが、インサイドの膝元に曲げるスライダー(カット)が有効だった。外からストライクゾーンに入れるスライダー(カット)もあり、出し入れができていた。インサイドのストライクゾーンにボールを動かせば何とかなるということを感じ取ったのではないだろうか」 1、2回はストレートにこだわった。先頭の坂口を全球ストレートでセンターフライに打ち取ると、続く上田もフルカウントから梅野のサインにクビを振って154キロのストレートを投げ込みレフトフライに。青木宣親には、結果的に、この試合唯一の四球を与えるが、4番の村上宗隆の4球目にフォークを使うまで全球ストレート。若き打点王をも154キロのストレートでスイングアウトである。 ヤクルト打線はキャッチャーの西田明央以外、全員左打者という異様な布陣で挑んだ。かつて荒れ球だった藤浪と、死球を巡る因縁のあるヤクルにでは、「選手生命を守るために試合に出たくない」と、真剣に直訴する右打者が続出して、首脳陣を悩ませてきた過去があり「左打者を並べる」ことが“暗黙の了解“になっていた。 左打者を並べられたことでストレート中心の配球につながったのかもしれない。 2回には一死二塁から吉田大成にストレートを逆方向のレフト線に弾き返され、先に1点を失う。だが、打順がふた回り目となった3回からガラっと配球を変化球主体に変えたのである。 左打者の膝元に食い込むように曲げるカットと、143キロから148キロの高速フォークが効果的だった。3回二死からは4番の村上をすべてフォークで三球三振。6回には、無死二塁から打率.336の元メジャーリーガー青木を145キロのフォークでスイングアウト。村上もフォークで二ゴロ、5番に入っている山崎晃太朗も、高速フォークで三振に斬って追加点を食い止めると思わずガッツポーズが飛び出した。 池田氏は抜け球が減った理由は投球フォームにあるという。 「これまで藤浪は。右打者のインサイド、左打者の外へのスライダー、カットボールが抜けていたが、それが消えた。理由は、腕が体から離れず回って安定していたからだ。軸、ステップ、下半身、上半身、リリースというピッチングの主要なメカニズムのタイミングがあってきた。昨年までも、力を抜くということを課題としながら、なかなかできなかったが、たとえば、下半身は100で上が85というようなバランスに手ごたえを感じたのだろう。ステップも少しインステップに戻っていたが、そこが投げやすい場所であるのならば、それでいい」 昨秋キャンプから中日OBの山本昌氏の指導を受けて、オフには米国の科学データを取り入れたトレーニング施設「ドライブライン」の出張教室に参加するなど、新しいスタイルを模索してきた。 一方で、荒れ球が減り、怖さや迫力がなくなったと指摘する声もある。 だが、池田氏は、「気にしなくていい」という意見だ。 「ストレートは、ほとんどが150キロに乗り最速で154キロ出ていた。ヤクルト打線はタイミングを合わせるのに苦労していたし、それで十分。しかも、フォークは140キロ台中盤がコンスタントに出ていた。そんなフォークを投げる投手は球界を見渡してもいない。村上も、そのボールに戸惑っていた。そのうちフォームの中の起点をつかんでくれば、もっと力を入れて160キロを出すことも可能になってくるだろう。でも、それは次の段階。今のままの方向性は間違っていないと思う」 藤浪の次回登板は、8月5日か6日の巨人戦が有力。復活の白星を飾るには首位の巨人は絶好の相手かもしれない。