愛せるアートは「かわいい!」の直感を信じて【石井佳苗さんのインテリア名品】
連載 KANAE’s MASTERPIECES────Interior Items:スタイリスト 石井佳苗の「インテリア名品」
テイストの変遷や引っ越しを重ねた今も、手元に残る大切なもの。石井さんのスタイルを形作る名品を、毎月1点ずつ紹介します。今回は、石井さんの“推し”とも言える、陶製のかわいいアートについて。
●石井佳苗さん Kanae Ishii スタイリスト 「カッシーナ・イクスシー」にて10年間勤務後、独立。雑誌や書籍、広告など多分野にわたる活躍で知られる。住まい作りの感覚を磨くヒントを綴った近著『Heima』(扶桑社)も好評。
愛せるアートとの出会いは「かわいい!」の直感を信じて
心惹かれるアートを目にしたときの私の反応は、けっこうテンション高めです。まさに、「きゃ~、かわいい!」といった感じ。特に、陶芸家・市橋美佳さんの作品を目の前にした場合には、それが顕著かもしれません。アートはすでにそこそこ持っているので、我を忘れるほど心が掻き立てられないと、実際手に入れるまでには至らないのです。 最初の出会いは、約2年前。左ページ右側の白い立体作品です。スタイリングに使うアートを探していたのですが、気づけば仕事を忘れて作品に見入っていました。幾何学的でありながら、まるで生き物を思わせるような佇まい。白一色の世界に漂う、ほんのりした温かさ。そのユニークな存在感に、目を惹かれずにはいられなかったのです。以来、展示があると聞けば足を運び、わが家には彼女の作品が着々と増えています。 彼女の姿勢が素敵なのは、形状を問わず、陶器という素材でさまざまな表現を見せてくれるところ。白の立体作品が強い印象を残す一方で、壁掛けの陶板で見せるのは、直線や円形を組み合わせた繊細な造形と絶妙な配色。一見するとフラットな表面に、釉薬でこまやかな凹凸が施されていて、そのディテールにもぐっとこずにはいられません。 アートは、知識がないと手を出しづらいものと思いがち。でも、そんなことにとらわれず、シンプルに「かわいい!」で手に入れるのも、きっと正解。市橋さんの作品を見ていると、そのことを実感するのです。 「糖蜜画」と市橋さんが名付けた、陶板の壁掛け作品シリーズ。いくつかの釉薬を使い分け、その上に上絵を何度も焼くという工程を重ねて仕上げられる。「触ってみると、凹凸の触感がとても心地いい。緻密に作られているけれど、作品が醸し出す空気はおおらかなのが魅力ですね」(石井佳苗さん)