国際難民法の専門家が語る世界の難民受け入れの実情、日本はもっと難民を受け入れるべきか?
■ 難民が先進国よりも途上国で保護される理由 ──UNHCRが世界中の難民申請されている方々の人数や内容を把握して、どれくらいの数を受け入れてほしいと各国に交渉しているのだと思っていました。 橋本:実は、私はそうしたやり方を充実させるよう提案しています。というのも、不公平なことに、全世界の難民のおよそ7~8割は常に、先進国ではなく途上国で保護されています。欧州にボートで難民が押し寄せる写真や映像などが報道されますが、あのようなケースはごく一部です。 難民がむしろ途上国に集まるのには理由があります。「難民をたくさん受け入れて、国際機関からの支援金を期待しているのではないか」「どうせ国境管理がきちんとできていないのだろう」といったシニカルな憶測も耳にしますが、研究が進むにつれ、そうではないことが分かってきました。 一つは、難民は多くの場合、一次的には近隣国に避難します。たとえば、南スーダンの難民はまず、周辺のアフリカの国々に避難する。また、同じ部族や宗教などの人が難民になると、近隣国が「同じ仲間なんだから」ということで積極的に受け入れるケースもあります。 アフリカなどは多くの国が植民地として支配された歴史があり、国境線の引かれ方が地形などを無視したおかしな区分けになっています。宗主国が強引に引いた国境線によって、分断されてしまった部族などもいて、片方の国で戦争があれば、隣の安全なほうの国にいる部族は、危険なほうにいる仲間たちを受け入れる。 部族や宗教でつながった人たちが、国境を越えて困っている仲間たちを受け入れるということが、特に植民地支配を経験した途上国で起きているのです。でも、貧しい国のほうが負担を強いられるというのは「ねじれ現象」と言えます。 ──難民の受け入れ方の異なる方式についても説明されています。
■ 二通りある難民の受け入れ方式 橋本:難民の受け入れ方は、大きく分けると二通りあります。1つは「自力でやって来る方式」(待ち受け方式)です。自力で本国の迫害を逃れて、他の国にやってきて難民として申請するケースです。「庇護申請者」と呼ばれる方々は基本的に、この自力で逃れてくる人たちです。 ロシアによるウクライナ侵攻以降、多くの国がウクライナ避難民用の特別な一時保護の枠を作りましたが、これも「自力でやって来る方式」(待ち受け方式)の一形態と言えます。 もう1つは「連れて来る方式」です。迫害を免れるために、とりあえず隣国に避難したけれど、そこも難民であふれている。あるいは、その国も不安定な政治経済状況にある。そこで、最初に入った第一次庇護国から、さらにより裕福で安定した国へ、国連機関の推薦や支援を受けて移動するという形です。 拙著で触れた「第三国定住」は連れてくる方式の伝統的な形です。 ──先進国の政府は、「待ち受け方式」よりも「第三国定住」を好むと書かれています。 橋本:受け入れ国からすると、いつ、どこから、何人、どんな人がやってくるのか分からないのが待ち受け方式です。でも、来てしまったら、前述の「ノン・ルフールマン原則」があるので追い返すわけにはいかない。入管当局からしたら、個人情報や数があらかじめ分かっているほうが必要な予算を立てて準備がしやすいわけです。 また、自力でやって来た人だと、もしかしたら危険な人である可能性も否めません。これに対して「第三国定住」の場合は、事前に国連によるスクリーニングがされており、いろいろな情報が分かっているので安心という面もあるのです。 ──北欧の国々では、むしろ「脆弱な難民」を優先的に受け入れてきたと書かれています。