精神科医・和田秀樹「うつ病は“心のがん”」 老人性うつが早期治療で6~7割の人が改善する理由
高齢になるとさまざまな不調が出やすくなる。気をつけたいのが“心のがん”と呼ばれる「うつ病」だ。若い人とのうつ病との違いは何か。発症要因や治療法は。精神科医に聞いた。AERA 2024年6月3日号より。 【図を見る】「うつ病」が「認知症」に見える? 症状を比較! * * * 「うつ病は“心のがん”なんです」 『80歳の壁』『うつの壁』『ぼけの壁』ほか多くの著書がある精神科医の和田秀樹さん(63)は、そう強く言う。 「生きていることがつらくなる。うつ病になって、一生を終えるのが、人生最大級の悲劇だと私は思います」 高齢になると、いろいろな身体的不調が出やすくなる。疲れやすい、眠れない、足腰も弱り、節々が痛む……といったものだ。やがて外に出るのもおっくうになり、家に引きこもる。これまで仕事に趣味にと活動的だった人が、引きこもり、自分が大切にしてきた対象を失えば、心理的に不安定になる。これが「老人性うつ」の最大の発症要因だ。 そしてひとたび高齢者がうつ病を発症すれば、「39度の熱を出したぐらい体がだるくなり、それが来る日も来る日も続く」 と和田さんは言う。 「体はだるいし、重い。そして自責の念にかられる。家族と同居している人であれば、家族に迷惑をかけていることを申し訳なく思い、自分を責め続けてしまう。生きていることがつらくなる。老人性うつは自殺を招きやすいので要注意です」 ■早期発見・治療が鍵 自殺に至らないにしても、うつ病になれば、免疫の機能も低下し、いろいろな意味で命を縮めてしまうという。 「長期的に見ても、緩やかに死へ向かう病気とも言えるでしょう」(和田さん) 一方で、高齢者のうつ病は、早期治療が有効だ。うつ病は、脳のハードとソフトの両面が故障して起きる病気だ。脳内の神経伝達物質のセロトニン不足が影響している。 「うつ病を放置して悪化してしまえば、脳の神経細胞が元に戻らず、治りにくくなります。だからこそ早期発見・早期治療が鍵。早期に治療すれば90%は寛解します」(同)
うつ病になると、やる気が起きず部屋に引きこもる→日光を浴びなくなりセロトニンの生成が阻害される→うつ病がさらに悪化→ますます引きこもる──といった悪循環から抜け出せなくなってしまう。 「早期治療が有効の理由として、若い人のうつ病と違い、老人性うつはセロトニン不足がベースにあるために、薬が効きやすいという点にあります。セロトニンの量を増やす薬を投与すれば、1カ月ほどで6~7割の人は症状が改善します」(同) (ライター、介護福祉士・大崎百紀) ※AERA 2024年6月3日号より抜粋
大崎百紀