宮島未奈さん『婚活マエストロ』インタビュー 本屋大賞「成瀬」後第1作、40代の実感を反映
『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)で2024年の本屋大賞に輝いた宮島未奈さん。受賞後第一作となる『婚活マエストロ』(文藝春秋)では一転、40歳の男性を主人公に、婚活パーティーをきっかけにした大人の出会いを描いています。年齢を重ねて経験する楽しいこと、悩むこと。著者のいろんな実感が反映された作品です。 【写真】宮島未奈さんインタビューカットはこちら
(あらすじ)
40歳の三文ライター・猪名川健人は、婚活事業を営む「ドリーム・ハピネス・プランニング」の紹介記事の仕事を引き受ける。安っぽいホームページ、雑居ビルの小さな事務所……どう考えても怪しい。手作り感あふれる地味なパーティーに現れたのは、やけに姿勢のいいスーツ姿の美女・鏡原奈緒子。生真面目にマイクを握った彼女は、婚活業界では名を知らぬ者はいない〈婚活マエストロ〉だった。鏡原は何者なのか、なぜこんな会社で働いているのか……謎は深まるばかりだが、同社のイベントを手伝ううちに、これまで結婚に興味のなかった猪名川も、次第に「真面目に婚活するのも悪くないかもしれない」と思い始める。
40代の実感を反映させたくて
――10代の少女が主人公だった「成瀬」シリーズから一転、今回は40歳の男性が主人公です。 今まで中学生、高校生を「成瀬」で書いてきたので、今度は大人の視点からにしようというのはあったんですけれど、自分が実際40歳を迎えてみて、やっぱり30代から40代へ、10の位が変わるという実感があったので、それをケンちゃんにそのまま反映させようと思って40歳の主人公にしました。 ――十の位が変わるのは気持ちとして大きかったと。 そうですね。40歳になってその瞬間に全てが変わるわけではないんですけれど、若い頃と比べるとやっぱり体力も落ちてきて、一方で私の場合は作家デビューして、若いころには想像できなかったことがいろいろと起こっている。それが必ずしも悪いことばかりじゃないし、楽しいことも、悩むこともあるので、それを40歳という年齢に反映させたと思います。 ――婚活をテーマに設定したのはどういった理由からでしょうか。 担当編集者がもともと、婚活パーティーの司会を大学時代にアルバイトでやっていたという話を聞かせてくれて、「是非、宮島さんにも婚活を書いてほしい」というお話を頂いたものですから。聞いていて「ちょっと面白そうだな、書いてみようかな」という気持ちになったので。 猪名川健人が関わっている「ドリーム・ハピネス・プランニング」は手作り感あふれるパーティー、と書いてるんですけれど、それこそ手作り感満載の「阿部寛のホームページ」とか、麦茶を作るとか、実際に聞き取った話なんですよね。そこに「こういう人たちがパーティーに集まったらこんな風になるかな」と想像して書いています。 ――男性の婚活にしたのはどうしてですか? 男性の婚活というより、まず鏡原奈緒子という伝説の女性司会者を書くところから始まっていて。もちろん鏡原さんを視点人物にしてもいいわけですけど、鏡原さんを描く他者がいたほうがいい。その時に、あまり婚活にガツガツしている人よりは、まず興味ない人。それで猪名川健人という人物が出てきたという感じです。 ――猪名川健人はウェブライターという設定です。宮島さんもご経験があるとか。 話の展開上、時間に融通が効く方がいいので、在宅ライターで家にずっといるという設定が思い浮かびました。たくさん量をこなせばそれなりに収入が増える仕事なので、絶対これで生計を立てている人もいるだろうなと思ったんですよね。「まとめサイト」とか、どんなことを書いているかも分かっていて、そういうことを表だって言いたくない、みたいな気持ちは私も感じたことなので、その時の実感が割と猪名川健人に反映されていますね。 ――今作は婚活パーティーという名目で皆さん集まってはいるけど、結婚したくてたまらない人は少数派で、何かちょっと違う人との出会い、つながりを求めて来ている感じがありますね。 そうだと思います。最初は全国各地でパーティーをやる「流しの婚活」のような案もあったんですけれど、それよりは何か拠点があった方がいいなと思って、今の形になりました。