ドラマ『宙わたる教室』が問いかけるもの。「人間の真価はどう決まるのか」
◆問題が文章で書かれていると解けない 第1回では柳田がクローズアップされた。茶髪でピアスをしており、言葉使いも荒かった。教師にも敬語を使わない。 その上、大麻の密売をするような不良グループとの付き合いも再開している。1年生のときには熱心に登校していたものの、2年生になってからは遅刻が目立っている。 だが、勉強が出来ないわけではない。テストの計算問題は満点。ただし、問題が文章で書かれていると、1問も解けない。昼間はゴミ収集の仕事をしていたが、そのマニュアルもノートにひらがなで書いていた。 心ない先輩がノートを勝手に見て、「定時制どころか小学生からやり直せ」と笑うと、柳田は激怒する。その先輩を殴った。柳田にとって読み書きが出来ないのは切実な問題だったのだ。 読み書きが出来ないせいで親に子供のころから酷く叱られ、クラスメートには見下された。1年生のときは学校に熱心に通ったのも読み書きをおぼえたかったから。2年生になると学校から足が遠のいたのも一向に読み書きが出来るようにならず、腐ってしまったためである。 柳田は藤竹に退学届を出す。しかし、藤竹は受け取らない。代わりに柳田がテストで解けなかった文章問題を口頭で出題した。「解けますか」。柳田は即座に答える。正解だった。
◆1人として置き去りにしない 藤竹は柳田がディスレクシアだと確信する。ディスレクシアは学習障がいの1つで、全体的な発達には問題がないものの、文字の読み書きには困難がある。 藤竹はこのとき初めて柳田がディスレクシアだと気付いたのではない。以前から分かっていた。柳田をよく見ていたからだ。行動だけでなく、テストの解答欄も出席表も事細かに見ていた。 藤竹は本人にもディスレクシアの可能性が高いと伝えた。ぼう然とした柳田は藤竹に噛み付く。 「なんで教えたんだ! 今さらどうする! なくした物は取り戻せねぇ!」 だが、それは違った。柳田はディスレクシアの人に向けたアプリの入ったタブレットを教室に持ち込むことによって、文章を理解できるようになる。藤竹は柳田に聞こえるように言った。 「ここはあきらめていたものを取り戻す場所なんですよ」 誰もが学ぼうと思ったら、いつだって学べる。早い、遅いはない。藤竹は柳田そう言いたかったのだろう。柳田の小中時代の教師は彼をよく見ていたのだろうか。高校の教師で素行の悪い柳田の退学を止める教師がどれだけいるだろう。 柳田に限らず、藤竹は生徒をよく見ている。1人として置き去りにしない。藤竹は頭脳明晰だが、一番の魅力は教師としての姿勢である。