「薬を飲まない薬剤師」が明かす“薬漬け”のリスク 「1日17錠飲んでいたが現在はゼロ」
「その薬、要りません」と断ることもできる
私が白衣を着て調剤の現場に立っていた頃、薬を出す量が少ないとあからさまにがっかりする患者さんを目にするのは珍しいことではありませんでした。本来、薬の量が少ないのは健康であることの証しであるはずです。ところが、「タダ=薬は病院からのお土産」とでも考えているのか、せっかく病院に行ったのに薬が少なかったと残念がる患者さんがいるという、何とも不思議な現象が起きてしまっているのです。 こうした背景もあって、ポリファーマシーが問題になっているわけです。国際的には5種類以上の薬を併用している状態をポリファーマシーと定義することが多いのですが、全国の保険薬局の処方調査では65~74歳の約3割が5種類以上の薬を併用しています。 薬を買うという感覚を持っていれば、私たちはもっと薬に関心を持つでしょう。その薬にはどんな効果があり、どれくらい必要なのかを吟味する。そうなると、望まない効き目だったり、費用対効果が悪い薬だったりした場合、「その薬、要りません」と断ることもできるはずです。
5種類以上の薬を飲む弊害
医療もサービス業の一つです。赤ひげ先生のように患者さんに真摯に向き合ってくれる医者がいる一方で、純然たるサービス業に徹し、ひたすらに儲けようとする医者がいるのもまた事実です。「ご一緒にポテトもいかがですか?」と勧めるファストフード店の店員さんの感覚で、「この薬もどうですか?」と、必ずしも服用しなければならないわけではない薬を処方する医者もいるのです。 薬が「商品」として提供されている以上、患者さん自らが要不要を判断することがあっても構わないはずです。「コスパ」を考慮して、大根1本298円だったら買わないけど、98円だったら買う。薬に関しても、もう少しこうした感覚を持ったほうがいいと思うのです。不要な薬によって健康をむしばまれることになるのは、医者ではなく患者さん自身なのですから。 実際、5種類以上の薬を飲んでいる高齢者は転倒リスクが高くなるなど、ポリファーマシーの弊害はさまざまに報告されています。 念のため付言しておきますが、私は、薬は絶対に飲んではいけないなどと主張しているわけではありません。止血剤のように急を要するケースに対処する薬は不可欠でしょうし、症状がひどい時にそれを緩和してくれる薬も大いに役立ちます。また、先天的な病気には薬は絶大な効果を発揮します。私がとりわけ問題視しているのは、何となく言われるままに飲み続けている薬のことです。