QRコードやオンラインで弔いも――「墓参りのデジタル化」で追悼のあり方は変わるか #老いる社会
最近では海外、特にアメリカや中国では、故人の人格を模したAIチャットボット(AIが応答するプログラム)を提供するスタートアップがいくつも生まれている。 「亡くなったおじいちゃんの文章、写真、動画などを自分で集め、自分で設定したAIチャットボットなら、たとえ本物のおじいちゃんと似ていなくても、それに愛着を感じるでしょう。もし『本物』とAIチャットボットが違っていれば、その相違点を家族と話し合えば、故人を思い出すこともできる。『AIチャットボットづくり』も故人を追悼する手段になりうると思います」
オンラインで弔うコミュニケーションを
お墓参りのデジタル化にはさまざまなメリットがある。デザイン墓など凝った墓石や記念碑などを建立する費用に比べて手頃であるうえ、故人や先祖に関する膨大な情報を保存し、閲覧できる。 だが、不安材料もある。その一つは永続性だ。前出の橋本さんは元銀行員という職業柄もあり、赤坂一ツ木陵苑を運営するニチリョクと契約する前、同社の倒産リスクを検討したという。 「威徳寺という数百年の歴史あるお寺にある納骨堂なので土地代は無視できると想定し、建物代を見積もり、1基当たりの値段から何基売れればペイするか計算しました。それで大丈夫だろうと判断したんです」 また、いくら充実したメモリアルコンテンツを作ってもサーバー管理会社が事業から撤退すれば、そのコンテンツをどこか別のサーバーに移さなければデータが丸ごと消えかねない。
『老いと死をめぐる現代の習俗 棄老・ぽっくり信仰・お供え・墓参り』(勁草書房)の著者で、全国の墓地の現地調査を行った経験のある社会学者の佐々木陽子さんは「デジタルであっても、『無縁墓』になる恐れはある」と指摘する。
「いまの日本は多死社会なので、墓を作っても、継承する人がいなければ、いずれ無縁化するのは避けられません。デジタル墓も事情は同じで、継承する難しさがあります。管理する人が誰もいなければ記憶のデータだけがオンライン空間を漂い続けます」 一方、デジタル墓には「救い」の可能性も感じるという。 「現代で死を悼むのは、多くの場合、限られた関係者だけで、忌引休暇も短縮化されつつあります。たとえ今にも涙がこぼれそうな精神状態でも、学校や会社では普段通りの自分を演じる必要に迫られます。しかし、オンラインでのお墓や弔う慣習が広がれば、時と場所を選ばず、家族や友達の枠を超えて慰め合えるコミュニケーションがはじまるかもしれません。死を悼む共同体の形成に期待しています」 家族の縮小、死亡数の増加、経済環境の変化により埋葬方式が多様化するのと並行して、お墓参りのデジタル化も進む。死を悼む方法は人それぞれだが、デジタル技術が広がれば、多くの人々と悲しみを共有し、支え合うことができるだろうか。 --- 緑慎也(みどり・しんや) サイエンスジャーナリスト。1976年、大阪府生まれ。出版社勤務後、月刊誌記者を経てフリーに。科学技術を中心に取材・執筆活動を続けている。著書に『13歳からのサイエンス』『消えた伝説のサル ベンツ』、『認知症の新しい常識』、共著に『太陽系の謎を説く』『山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた』『ウイルス大感染時代』『超・進化論 生命40億年地球のルールに迫る』など。 --- 「#老いる社会」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。2025年、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となります。また、さまざまなインフラが老朽化し、仕組みが制度疲労を起こすなど、日本社会全体が「老い」に向かっています。生じる課題にどう立ち向かえばよいのか、解説や事例を通じ、ユーザーとともに考えます。