QRコードやオンラインで弔いも――「墓参りのデジタル化」で追悼のあり方は変わるか #老いる社会
納骨堂でのみアクセスするデジタルデータ
周囲にオフィスビルや繁華街が広がる東京都港区の「威徳寺 赤坂一ツ木陵苑」。ICカードでお骨の入った厨子が自動搬送されてくるビル型納骨堂だ。元銀行員の橋本秀人さん(61)は参拝ブースで、タッチパネル式のディスプレーをスワイプしながら自身の家系図を説明する。
「これが亡き父と母、私はここ。もうすぐ次男の子どもが生まれるので、また加えないといけないですね」 ディスプレーには、家系図のほか、墓誌、家族史、未来に向けたタイムメッセージ(指定された日が来るまで表示できないメッセージ。孫が20歳のときに開示するなどの指定も可能)、お墓参りの記録といったコンテンツが閲覧できる。これが同苑の「家系樹」だ。家系樹は公的なものではないため、ペットを組み入れることもできる。故人や遺族の意のままに記せるのだ。 ただし家系樹はオンラインには対応しておらず、同苑の参拝ブースまで来ないと閲覧できない。販売代行している株式会社ニチリョクの同苑担当者は、あえてオフラインでのみ利用できるようにしたと語る。 「技術的にはスマホやパソコンで閲覧することは可能ですが、あえてそうしていません。この場所に足を運んでいただくことに価値があると考えているからです」
前出の橋本秀人さんは2018年に母親を亡くし、赤坂一ツ木陵苑に埋葬するのと同時に、実家のある京都のお墓にすでに埋葬されていた父親を分骨して納骨していたが、今年6月、京都で墓じまいして、父母を同じ厨子(収納用仏具)に納めた。 父母が亡くなったのはどちらも11月。橋本さんは毎年11月に息子ら家族を集めて、先祖を偲ぶ会を催している。赤坂見附駅から徒歩2分の立地なので、集まるのも便利だという。 「家系樹のようなサービスがあると、家族が集まったときに思い出話に花を咲かせるような状況が作りやすいですね」
橋本さんの銀行時代の元同僚で、元早稲田大学講師のリチャード・ジニエスさんは最近、赤坂一ツ木陵苑での納骨を生前予約した。21年前に日本人の妻を亡くし、子どもはいない。出身地のフランスで両親は他界し、弟は健在だが、もう会う予定はなく、自分が死んでもわざわざ墓参りには来ないはずだという。フランスには戸籍制度がなく、家系に対するこだわりもない。それでも家系樹には自分の足跡をたどる文章や写真を納めた。