山田尚子「SNSが世の中を喰っている」 『きみの色』で“若者の社会性”を描いたきっかけとは
“土地の色”の表現にこだわった
ーーアニメーションの画作りではどのような方向性を意識したのですか? 山田:もちろん色を題材にしているので、どういったムードを持って観ている人に伝わるのか、色の見せ方にはこだわりました。演出として動きや音もありますが、色って感覚的に伝わりやすい部分なので、その色の種類や幅はすごく考えました。どんな色調で、どのラインの色なのか。あとはロケーションですね。ロケハンに行ったときの、長崎と五島列島の空気とか、海の色とか、あと人の雰囲気とか、そういったものが大切なんです。ロケハンに行った時に、こんなに綺麗で、こんなに透き通った海なんだ、まるで日本とは思えないな、という感情がすごくあって。 ーー私も長崎に親の実家があるのでよく分かります。 山田:長崎もすごく綺麗ですよね。さらに五島列島に行くと、エメラルドグリーンの海で、おそらく遠浅ですごく静かな海だったんです。その時に感じた空気感や、住んでいる方々の人柄とかを思うと、長崎って日本でもすごく独特な文化を持っている場所だと思うんです。元々キリスト教にまつわる歴史もありますし、そこからずっと培われてきたその“土地の色”みたいなものを表現して、劇場の画面から受け取るムードみたいなものを、私が長崎、五島で感じたムードに合わせたいなと思いました。 ーー山田監督の画作りにおいてロケハンが特に重要なんですね。 山田:すごく大事です。今回は舞台というよりモデルという形で使わせていただいているので、実際の距離感とか作りとかもそのものではないのですが、やっぱりその土地から得るものってすごく大きいんです。作品そのもののイメージとか色味にすごく関わってくるので、何回も行ったりします。 ーー音楽についてはどうですか? 山田:しろねこ堂の3人が作った音楽だと思ってもらえるものじゃないと嫌でした。不十分でもいいし、音も少なくてもいいし、超絶技巧なんて必要ない。本当に作品の中にのめり込んで、ちゃんと馴染んでいく音楽にこだわりました。 ーーテルミンもカッコよかったです。 山田:素晴らしいですよね。フランスのGrégoire Blancさんというテルミン奏者の方がいるのですが、その方をYouTubeで見て、こんなに綺麗なテルミンの音色が存在するんだって感動して。今までのテルミンの印象は、結構効果音というか、ちょっと不思議系の音を出すものというイメージだったのですが、Grégoire Blancさんはクラシック音楽などのメロディーをすごく綺麗に出していらっしゃって。なのでこの音色を映画の中で奏でてほしいと思い、実際にその方に弾いてもらいました。テルミンのイメージがある種変わるんじゃないかと思っています。