山田尚子「SNSが世の中を喰っている」 『きみの色』で“若者の社会性”を描いたきっかけとは
カトリック系のミッションスクールが舞台になった理由
ーー本作ではキリスト教が軸にある理由はそうした部分にあるのでしょうか? 山田:今回の舞台はカトリック系のミッションスクールです。しかし、実際には日本のミッション系スクールって生徒の中に信者さんがたくさんいるわけではなく、10パーセントに満たないほど少ないんです。それでもミッション系スクールとして成り立っているのが日本独特な気がして。1つ信じるものを持っている人も認められているし、“信じること”をしていない人も認められているという、その懐の深さはとても日本独特の文化のような気がしています。なので、そのどちらも同居している世界観を描きたかったというか、“規定しない”ことがすごく大事で、こういう考え方もあるんだっていうのが理解しやすいのではないかと思いました。日本には仏教の人もいるし、神道の人もいるし、無神論者の方が1番多いし、みたいな。反対に、いろんな人がいる中で、ひとりで信じるものを信じている子の心の動きを勉強したいという気持ちもありました。なので、何か宗教論を論じたかったとかではなく、いろんな心の方向性があるし、それを認められる、大切にしていける作品にしたかったんです。 ーーその中でシスター日吉子は印象的な“大人”の存在でしたね。 山田:全てを完璧にこなす人などいない、ということの象徴であり、その人のかわいらしさとか魅力みたいなものを表現したかったんです。作品の中では唯一登場する関わり合いのある“大人のひと”です。「(私も)昔はね……」みたいな感じの思いもありつつ、最後ははっちゃけて踊ってるみたいな、そういう人間らしさがある人ってとてもいいなと思ったんです。まだまだ彼女はシスターとしては若い。今回劇中で生徒たちにとった彼女の行動が正しかったかどうかはわからないし、あの後彼女はすごく後悔をしてずっと聖堂にこもるかもしれない。こうしてもっと隙のないシスターが出来上がっていくのかもしれないですが、その“少女・日吉子”が“シスター・日吉子”となっていく道筋みたいな感覚で描きました。