松岡昌宏主演のWOWOW刑事ドラマ「密告はうたう2 警視庁監察ファイル」原作者が語る創作の裏側、そしてシリーズ最新刊の舞台は…新宿歌舞伎町!
「『残響』を書き終えた段階では4作目を書くつもりはありませんでした。しかしありがたいことに『ブラックリスト』と『残響』を原作にしたドラマが制作されることになりました。ドラマからこのシリーズを知った方も大勢いらっしゃるはずです。そういう方が今回のドラマを見終わった時、第3弾を見たいと切望しても、原作がないと実現の可能性はゼロになってしまいます。書いたところでドラマの第3弾があるかどうかはわかりませんが、ひとまず新作を用意しておくのが原作者の責任ではないかと思いました。佐良や皆口の物語はすでに書いていますから、残っているのは毛利だろうと、彼を中心にした物語にしました」 ――毛利はいつも愛想が良く、特にIT関係に強みがあるなど捜査能力も高い。だが本心を見せようとしない。本作も彼が朝鏡に向かい、作り笑顔を確認する描写から始まる。幼稚園児のころからの習慣であり、長年の練習で「すんなりと作り笑いを生み出せる」人間になったのだ。その原因を作ったのが彼の家庭環境だ。父親は仕事一筋の警察官で、家庭を顧みることのない人物だった。母は病弱だが、夫を支え、夫の仕事の足を引っ張らないよう体調の悪さを隠し、気丈に振る舞い続けたのだ。その結果、母親は毛利が小学校4年生の時に亡くなってしまう。「笑って。あなたの笑顔がお母さんにとって最高の薬だよ」という言葉は、毛利にとって一種の呪いにもなっている。そして母親の死後しばらくして、父親も自死する。こうして毛利の家庭は完全に崩壊したのだ。この作品では警視庁生活安全部の少年係の警部補が行確の対象となる。暴力団員と関わりがあり、捜査情報と引き換えに金銭の供与を受けている疑いが浮かび上がったのだ。佐良、皆口、そして毛利の三人はこの警部補を追い、新宿歌舞伎町に赴く。もう一人の視点人物が、中学校のクラスで孤立し、埼玉から初めてここにやってきた少年だ。似たような境遇の女子中学生と知り合いになり、偶然に違法薬物を手に入れてしまう。今回はこの歌舞伎町周辺が物語のメインになる。 「いまの歌舞伎町ではトー横キッズという存在がすっかり有名になりました。私が中学生の頃は渋谷のチーマー。時代ごとに、異なる背景が新たな少年少女の問題を起こしてしまうのでしょう」 ――登場する少年少女はDVやネグレクトを受けている。毛利も父親とは完全に断絶しており、母親の死後はネグレクト状態だった。 「少年たちと似た問題を抱えていた毛利は、犯罪に巻き込まれる少年たちとある意味対になる存在です。毛利は捜査対象を追う過程で少年たちを見守ることになり、下手をすれば自分もこうなっていたかもしれないと思うようになっていきます」 ――毛利は「必要以上の仕事なんてするべきじゃない」というモットーの持ち主だった。だが明らかにこの事件を通して、自らが課していたリミッターを外していく。「必要以上のことをすべきではない。場合によってはその時に課せられた任務を放棄してでも、必要以上のことをすべき。この二つの狭間に、自分のこれまでの人生では決して見出していなかった何かが隠されている気がする」という毛利の述懐が胸を打つ。 「事件を通して成長する毛利を描けたことは一つの収穫でした。毛利のいい味を出せたのではないかと思います」 ――ドラマに小説。夏から秋にかけ、二つの世界で伊兼源太郎作品を楽しむことができる。