「敵」3冠の快挙! なのに注目度もう一つ…… 第37回東京国際映画祭の盛り上がり度
西部劇仕立ての「アディオス・アミーゴ」
ただ、六つの賞のうち半分が「敵」に集まったのは、未知の才能を発掘し世界に紹介するという映画祭の役割からは少々残念。コンペ全体の水準が高かったとは言えないが、多くの作品に賞を与え、光を当てるという選択もあり得たのではないか。 審査委員特別賞の「アディオス・アミーゴ」は、20世紀初頭のコロンビアが舞台。内戦後に生き別れの兄を捜す男の旅を通し、人心の荒廃や民族差別を浮き彫りにする。西部劇スタイルの語り口がユニークだった。アナマリア・バルトロメイが最優秀女優賞を受けた「トラフィック」は、ルーマニアからの労働者が西欧の美術館から名画を盗み出す。欧州内やルーマニア国内の社会格差をユーモアを交えて描いた。いずれも国家や歴史を、批評的に物語に取り込んだ意欲作だ。最優秀芸術貢献賞は中国の「わが友アンドレ」。故郷に向かう途中で少年時代の友人と偶然再会した主人公が、過去をたどることになる幻想的な物語だった。
中国語圏の存在感、圧倒的
それにしても、今回は中国語圏の存在感が突出していた。コンペ15作品のうち5本が中国、香港、台湾から。審査委員5人のうち、審査委員長を務めた俳優のトニー・レオンと監督のジョニー・トーの2人も香港人だ。映画祭は「アジア重視」を掲げ、コンペの中国語圏作品は確かに高水準だったが、ほかの国や地域の映画も見たかった。作品発掘の困難さは想像できる。東南アジアの〝映画新興国〟もまず欧州の映画祭を目指すし、お隣の韓国映画界が苦境にあり、TIFFの会期直前にプサン国際映画祭も開かれる。しかしそうした中で秀作を発掘してこそ、映画祭の重要度は高まるというものだ。 映画祭の価値は、世界の映画人がどれだけ「出品してよかった」「行くべき映画祭」と認知するかで上下する。そして国内でも、熱心な映画ファン以外の人たちが「映画と出合う楽しみ」を求める場になることが必要だろう。新聞の扱いの小ささは、その認知が十分でないことを示している。姿勢が明確になってきたTIFF、ここからのもう一踏ん張りを期待したい。
ひとシネマ編集長 勝田友巳