「敵」3冠の快挙! なのに注目度もう一つ…… 第37回東京国際映画祭の盛り上がり度
世代超えた対話に問題点が浮き彫り
4部構成のシンポジウムでは、世代や国籍の異なる女性監督たちが、映画界の現状や歴史について語り合った。1970年代からピンク映画を300本作ったという浜野佐知監督は「女性が監督になる道がなかったから、ピンク映画に飛び込んだ」と回想。「サングラスが戦闘服のつもり」と男社会での戦いを振り返った。 一方、2016年にデビューしたふくだももこ監督は「先輩たちが作った流れを享受している。妊娠中でも撮影に臨んで、なんとかなるもんだと思った」と環境の違いを指摘。子育てをしながら監督も続けているが「撮影で長期間子どもと会えず、成長への影響が心配」と新たな悩みを語っていた。トルコのジェイラン・オズギュン・オズチェリキ監督は「トルコは家父長制が残る社会。親から反対され、監督になっても大会社からのサポートが得られない」と苦境を訴えていた。 会場に集まった聴衆も含め、問題意識を共有し交流の場となった、意義深い試みだった。とはいえ、今回のTIFF上映作品のうち女性監督作の比率は21.9%。ツベトコビッチは「異なる視点から語られる物語が、観客の経験を豊かにする。女性が働き続けられないのは、社会にとって損失だ。日本は映画会社が積極的に女性を登用していくべきだ」と呼びかけていた。
評価集まった「敵」3冠
さて、映画祭の華、コンペティション部門では、日本映画「敵」が、最高賞の東京グランプリ、吉田大八の最優秀監督賞、長塚京三の同男優賞を獲得。日本映画のグランプリ受賞は「雪に願うこと」以来、19年ぶりだ。 「敵」は筒井康隆の小説が原作。一人暮らしの元大学教授が、「敵が迫っている」という妄想にとらわれていく姿を白黒の映像に描く。舞台はほぼ家の中、主人公のほかには限られた人物が出入りするだけの静かな作品だ。吉田監督が「やりたいことをできる限り」と臨み、ミニマルな物語の中に老いの孤独や不安をユーモアを交えて表現した。映像的な挑戦をしつつ娯楽性にも富み、完成度の高い作品だった。トニー・レオン審査委員長は「誰もが苦しむが直視しようとしない問題に、機知とユーモアを持って誠実に取り組んだ」と評した。長塚についても「登場した瞬間から魅了された」と絶賛だった。