「敵」3冠の快挙! なのに注目度もう一つ…… 第37回東京国際映画祭の盛り上がり度
国際映画祭の〝重要度〟は、メディアの扱いで測ることができる。特に、新聞紙面での記事の大きさに顕著に表れる。スペースは限られているから、大事なニュースほど大きく〝前〟に、載っていればいいというネタなら片隅に小さく。カンヌ、ベルリン、ベネチアの3大国際映画祭で日本映画が最高賞を受賞すれば、「1面級」だ。しかし小さな映画祭だと社会面の端っこか、場合によってはボツ。 【写真】第37回東京国際映画祭で最優秀男優賞を受賞し、審査委員長のトニー・レオン(左)と並んだ長塚京三
映画や映画祭は「文化」ではない?
第37回東京国際映画祭(TIFF、10月28日~11月6日)では、「敵」が日本映画として19年ぶりとなる最高賞の東京グランプリのほか、長塚京三の最優秀男優賞、吉田大八の同監督賞と3冠に輝いた。これがカンヌなら、1面トップの大ニュースだろう。しかし実際は、毎日新聞が見出し付きで報じた以外、他紙はどこも雑報扱いだった。〝アジアを代表する映画祭〟なのに、この注目度。映画や映画祭の社会的な地位の反映で、やむを得ないのかもしれないが、最近のTIFF、けっこうがんばっている。今回は「アジア」「女性」「育成」を掲げ、これまでに増して社会へのメッセージを発信しようとしていた。 映画祭事務局のまとめによれば、期間中の上映作品は208本、6万1576人を動員した。共に前回より減ったものの、上映会場はどこも熱心な観客が集まっていた。中国のアイドルが主演した作品では、中国からの女性ファンも大挙して押しかけていた。その熱気が、会場の外に伝わらないのが残念なのである。
女性映画人のネットワーク作りに貢献
今回新設された「ウィメンズ・エンパワーメント」部門は、TIFFが目指す男女対等の参画という課題への具体的取り組みの一つ。女性の現状を描いた映画を上映したほか、「女性監督は歩き続ける」と題したシンポジウムも開催、会場は満員の盛況だった。 もっとも、TIFFは1985年の第1回から、岩波ホール総支配人だった高野悦子をプロデューサーに、女性監督の作品を集めた映画祭を併設、2012年まで25回(当初は隔年)にわたって開催した。今回はその復活版とも言える。高野が奮闘していた頃と比べれば映画界でも女性の数は増えているが、男性と対等とは言いがたい。 上映されたのは、イラン、トルコ、香港などの国・地域の、女性監督や女性が主人公の映画8作品。たとえばイラン出身のサルベナズ・アラムベイギ監督の「マイデゴル」は、イランで暮らすアフガニスタンの少女が、格闘技で五輪に出場する夢を抱く物語。祖国では女性スポーツが許されず未来が見通せなくても、けなげにトレーニングに励む姿を生き生きと描き出していた。どの映画にも、さまざまな状況で社会進出を阻まれる女性たちが描かれ、共通の感情が流れていた。シニア・プログラマーのアンドリヤナ・ツベトコビッチは「上映作品は、世界の女性たちが置かれている状況をモザイクのように映し出していた」と話していた。