「打てなかったら中国に帰れ」から30余年――女子ソフト・宇津木麗華が貫く指導の流儀
自主性を重んじるがゆえの難しさ
昨今の若者はSNS上では自分のストレートな思いを発信するのに、面と向かって他人に感情を出さないと言われる。そうやって気質も変わる中、彼女らにどうアプローチしていくべきかというのは、教える側にとっても悩ましい部分だろう。 「去年の代表合宿で、選手と心理学の先生と矢端信介チームリーダーが個人面談するという試みが行われたんです。監督である私も同席して、客観的立場でやり取りを見ていたんですけど、座った途端、いきなり涙をボロボロ流す選手が2~3人かいた。何か喋る前から涙を見せられたら、特に男性は困惑してしまいますよね。正直、私もビックリしました。でも自分は同じ女性だから涙には強い」
「自分が『何で泣くの?』と普通に声をかけて、気持ちを落ち着かせられますし、雰囲気も明るくできます。女性指導者の方が感性や感受性が細かいから、選手にかけられる言葉をたくさん持っているし、うまく調整できると思うんです。ソフトボールに女性監督が多いのは、そういう効果があるからなんでしょう。今の日本代表も矢端チームリーダーとトレーナー以外は全て女性。いいバランスでやれていると感じています」 女子のトップアスリートは真面目でひたむきで、責任感や使命感も非常に強い傾向がある。その分、「自分がこうあるべき」「こうしなければいけない」という固定観念にとらわれがちだ。それを取っ払って自由にさせ、明るく楽しく前向きな方向へ導いてあげることができれば、肩の力を抜いて自身の能力をより発揮しやすくなる。宇津木HCは、それが自分の役割だと考えている。 「試合の時、『打てなくてすみません』と謝りに来る子は結構います。でも私は『どうして謝るの?』『なんで謝らなきゃいけないの?』と疑問に感じます。普段3割のバッターだったら、4割に打率を上げられるように次、努力すればいい。1割を上げるために、次の1本をどう打つかを考え、トライすればいいんです。ピッチャーの上野も北京の頃、『フォアボールを出したら怒られるんです』と直々に相談に来たことがありました。その時、私は『ホームランバッターにフォアボールを出せば、ホームランを打たれない。ヒット1本打たれたと思えば、本当に大したことない』と受け流しました。そうやってポジティブな方向に導いていけば、みんな楽しくなってくるし、もっともっと上を目指そうという意欲も自然と高まってくる」