イチゴ「超促成栽培」九州電力が大気熱利用しスマート農業…安川電機はAI選別・パック詰めロボット
農業の生産効率化につながる「スマート農業」向けの技術開発に参入する動きが、九州の企業で相次いでいる。農家の高齢化や担い手不足が進む中、最新技術を課題の解決につなげることで商機を取り込む狙いがある。(松本晋太郎) 【写真】無人自動運転コンバインによる稲刈り。運転席には誰もいない
福岡県朝倉市のハウス農場で10月中旬、多くのイチゴが赤く色づいていた。通常のイチゴより収穫期を早めることができる「超促成栽培」の技術を活用し、2か月ほど早く実を付けた。
開発したのは九州電力で、気温が高い状態ではイチゴの生育が進まない点に着目。大気熱を利用する電力設備「ヒートポンプ」で温度を20度前後に下げた水を使い、根元を冷やしたところ、実を付けることに成功した。収穫したイチゴは青果市場に出荷し、最盛期の春に比べて3~4倍高い価格で取引できたという。
九電は電力需要の拡大を視野に、2019年から本格的にスマート農業に挑んでいる。今回の技術は農家の所得向上につながるとみて販売を検討しており、担当者は「技術を普及させることで農業の電化も推進したい」と話す。
産業用ロボット大手の安川電機も、イチゴ農家向けの技術開発を進めている。収穫したイチゴをパック詰めする際、AI(人工知能)がカメラで実の大きさを選別し、パックに見栄え良く並べられるロボットで、農家にとって出荷作業を大きく効率化できる利点がある。25年度の実用化を目指す。
新興企業も参入
農林水産省によると、国内で農業を主な仕事にしている人は23年に116万人と、20年で半減した。一方、矢野経済研究所によると、「スマート農業」の国内市場規模は29年度に708億円と、22年度の2・3倍に膨らむ見通しだ。スマート農業の促進に向けた新法も今年、成立した。
独自の技術で成果を上げる新興企業も出ている。ピーマンなどの自動収穫ロボットを手がけるアグリスト(宮崎県新富町)は9月、米マイクロソフトの支援を受け、農業に特化したAIの開発に成功したと発表した。アグリストは「AIが予測する収穫量の精度を上げ、農家の生産性向上に貢献したい」とする。
ただ、スマート農業のシステムは導入費用がかさむなど、小規模な農家が多い国内では普及に向けた課題も少なくない。九州は全国の農業産出額のうち2割を占める主要地域で、深刻な人手不足を先端技術で補って農業の振興につなげるには、官民による後押しが一段と求められそうだ。