【観光振興と地方創生の秘策】“非観光事業者”がツアーを企画、青年会議所のアドベンチャーツーリズムが見せた可能性
全国各地で企画されたモニターツアー
策定された観光プランは、モニターツアーとして実施され、参加者からのフィードバックを基に改善が行われる。これにより、観光客の期待に応える質の高い体験型プランが完成するが、JCメンバーは手探りでモニターツアーに対象国の観光客、インフルエンサーを招聘した。実際には下記のような旅行商品が企画された。 蒲郡青年会議所(愛知県港町)は、漁業体験や競りの見学を企画。観光客が漁船に乗り込み、漁師の仕事を体験することで、漁業の魅力とその厳しさを実感し、底引き網漁で獲れた魚をその場で調理して楽しみ、漁師たちの想いや生活への理解を深め、地元の魅力を肌で感じた。さらに、漁業には欠かせないロープ作りも体験し、地域の漁業産業全体を見せた。 また、自転車好きが高じて突然民泊を始めた飲食店経営者や、蒲郡が誇る山登りの鉄人といった個性豊かな人物がプロジェクトを支えた。これらの多様なステークホルダーの協力によって、観光客が地域に密接に関わることが可能となり、訪問者にとって特別な体験が可能となった。
備前市では、伝統工芸「備前焼」を観光の核として活用したプランが展開されている。訪問者は備前焼の作陶体験を通じて、この地域独自の陶芸技法やその歴史的背景に触れ、備前焼の器で食事が提供され、地元の食材を活かした料理を通じて地域文化を体験することができる。 陶芸家との交流も組み込まれ、訪問者は作品制作の裏にある職人の想いや技術を学んだ。備前焼と食文化を融合させたこの取り組みは、訪問者に地域の深い理解と魅力的な体験を提供するだけでなく、伝統工芸品の価値を再発見する機会となることを意識して企画された。 愛知県豊田市下山地区では、里山の景観保全をテーマにしたツアーが展開されている。訪問者は農地の景観保全作業に参加し、地元住民との共同作業を通じて地域資源の価値を体感する。 囲炉裏を囲んだランチイベントでは、地元住民と交流しながら地域の食文化を楽しむ。環境保全と観光を結びつけることで、持続可能な地域観光のモデルケースとなりうる。 実際にこの企画がすぐに人気旅行商品になるかと言えば、適切な商品化には多くのトライ&エラーを重ねるだろう。旅行業界のプロフェッショナルが担当、上記のような旅行商品をもっとスムーズにうまく策定できるかもしれないが、重要なのは、いきなり人気旅行商品を作ることではなく、この活動を通じて、地域内の旅行事業者と非旅行事業者のコミュニケーションが促進され、連携の気運が生まれてゆくことである。 日本全国に広がる青年会議所のうち150以上が来年度以降もインバウンドへの取り組みを継続したいと表明した。JCの活動は1年区切りが基本なので、継続的に同じテーマが扱われることは極めて稀なのだが、このインバウンドと地方創生は数年の継続計画になりつつある。 ここに行政、商工会議所等の多様なプレイヤーが乗ってくることで観光地域経営と地域創生が良い循環になってゆくだろう。観光事業に知見のないJCメンバーが理解し動くことのできるような形式知化は他の対象・組織でも有効なはずである。この形式知化を継続的に行い、全国で700のLOMを持つJCがこの循環の触媒になることに期待できる。