「インドで2030年、奇跡の成長が始まる」モディが体現する技術革新と伝統の両立への道
ヒンドゥーナショナリズムを頑として貫くナレンドラ・モディ首相は、高い支持率を誇る。抑圧や格差、さまざまな矛盾をはらみつつ、勃興するインドの「未来への約束」とは
「私の着ているベストを触ってごらん」というインドのナレンドラ・モディ首相の言葉に、本誌取材チームは戸惑った。3月下旬、ニューデリーで行われた独占インタビューでのエピソードだ。【ダニシュ・マンズール・バット(本誌アジア地域編集ディレクター)】 【写真特集】騙されて子宮を奪われるインドの農民女性たち 「ほら、触ってごらん」とモディは重ねて言い、素材を当ててみるように言った。絹でしょうか、と答えた本誌グローバル編集長のナンシー・クーパーに「リサイクルしたペットボトルだ」と話すモディは、相手が驚く様子を明らかに楽しんでいた。 まさにモディらしいといえるだろう。技術革新と伝統の両方を愛し、メッセージ発信の達人なのに異論を招きがちな人物──。 立ち襟の付いたジャケットやベストはインド初代首相ネールが着ていたことで知られ、「ネール・ジャケット(ベスト)」と呼ばれる。この服は、インドという独立まもない国家の誇りの象徴でもあった。 最近では、モディ人気にあやかってネール・ジャケットならぬ「モディ・ジャケット」として売られることもある。 だが2018年にインドを訪れた韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領(当時)が、モディから仕立てのいい「モディ・ベスト」を贈られたとツイートしたときには、「それはネール・ジャケットだ」と大炎上した。 かつてイギリスの経済学者ジョーン・ロビンソンは「インドについての正しい記述は全て、その反対も真である」と述べた。そしてモディという人物はインドという国と同様に、矛盾に満ちている。 近代化のあくなき追求者でありながら、過去を重んじる。インドのデジタル決済や環境技術について語るのと同じくらい誇らしげに、11日間にわたるヒンドゥー教の伝統儀式に携わった体験について語る。 まるでセレブのように自分のブランドのTシャツを売る一方で、海辺でゴミ拾いをしたり道路掃除をしたりして、一般国民にアピールする。 大国の指導者としては珍しく、アメリカのジョー・バイデン大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領の両方と親しい関係を結んでいる。 6月1日まで続くインド総選挙では、民族や宗教の垣根を越えた進歩を唱えている。だが多くの宗教マイノリティーは、彼が率いるヒンドゥー至上主義政党のインド人民党(BJP)によって自分たちは進歩から締め出されていると感じている。 こうした矛盾のせいもあって、モディとメディアの関係は対立的で、インタビューに応じることはほとんどない。報道の自由度ランキングにおけるインドの順位は、モディが政権を握って以降、大きく下がった。 だが、インドを率いる首相についての理解を深めることは、これまでになく重要になっている。インドが私たちの生きるこの世界に及ぼす影響は大きくなるばかりだ。