アメリカの歴史に名を残す「トランプはこの100年で最も力強い政治家に」地滑り的勝利には理由がある
バイデンとの違い「何一つ思い当たらない」
こうして考えを巡らせると、ハリスの運命は彼女が現職のバイデンから距離を置き損ねたときに決定づけられたように思える。ABCテレビの情報番組『ザ・ビュー』に招かれたときは彼女が自分をバイデンと差別化する絶好の機会だったが、現職副大統領の彼女にはそれができなかった。 過去4年間でバイデンと違うことができたとすれば何かと問われ、「何一つ思い当たらない」と答えてしまったのだ。もっと現政権の路線から離れた人物を立てていれば、民主党にも勝機はあったと思える。 ④主流メディアの影響力が低下 今のアメリカで主流のメディアは先を読めず、庶民の感覚からもずれている。読者・視聴者を飽きさせないという短期の目標に縛られているせいで、大局的な状況を見極めるのが困難になっている。 プエルトリコを侮辱するコメディアンの発言が選挙の流れを変えるような報道がなされたが、そんなことはなかったし、そんなことになるはずもなかった。選挙の力学は時間をかけて、経済のファンダメンタルズを反映して動くもので、目まぐるしいニュースのサイクルに左右されるものではない。 しかし主流メディアは、そういう基本的な経済指標にめったに目を向けない。「インフレはどの程度ひどかったか? 良くなったと思うか? トランプとハリスのどちらがインフレ対策に優れているか? どちらのほうがあなたの暮らしに役立つか?」。そういう問題こそが、今回の選挙では語られるべきだった。 個々の暴言や放言の影響を詮索するよりも、これらの質問に対する答えをしっかり見ているほうが選挙戦の流れを的確に読み取れる。そもそも、お騒がせコメディアン兼コメンテーターのジョー・ローガンが主宰するポッドキャストや起業家イーロン・マスクのX(旧ツイッター)への投稿に触れる人たちは、ニューヨーク・タイムズの購読者の30~40倍もいる。 民主党は既存の権威あるメディアの尊敬を勝ち取り、お墨付きを得ており、トランプや共和党員ほど否定的に報道されないという点で、共和党よりも優位だ。だが主流メディアの影響力の範囲が縮小しているため、この優位性は低下している。 いくら地上波テレビのトーク番組で有名コメディアンがトランプを痛烈に風刺しても、今は口コミで広がった右派のポッドキャストを見たり聴いたりする人のほうが多い。何千人ものスタッフを擁するCNNのような組織より、一個人にすぎないジョー・ローガンの発信力のほうが何倍も強い。そんな時代だ。 ⑤投票行動は変わりやすい 私たちは選挙結果を過剰に解釈し、一般化しがちだ。今のところ、マスメディアの論評は民主党の「惨敗」に集中している。既にハリスは、4年前に国家への反逆に手を貸した犯罪者相手の選挙でしくじった敗者として歴史のごみ箱に捨てられている。しかし忘れるなかれ。彼女には最後まで、50%の確率でアメリカ史上初の女性大統領になる可能性があったのだ。 若者に人気のジュビリー・メディアがYouTubeで、「投票先未定」の有権者25人と現役運輸長官のピート・ブティジェッジを招いて1時間にわたるディベート番組を流したことがある。あのときハリスの代役として立ったブティジェッジ(まだ42歳で同性愛者だ)はたった1時間で25人中数人の心を動かし、ハリス支持に回らせることに成功した。 トランプが選挙人争奪戦で8年前の圧勝を再現し、一般投票でもついに勝利を手にしたのは事実。だが態度を決めていない25人の有権者中たった1人でも心変わりしていれば、今頃ハリスは最高に聡明な政治家と呼ばれ、トランプは最低の負け犬となり、(今までに起訴された案件の全てで有罪になれば)余生を刑務所で過ごすことになっていたはずだ。 ところがそうはならず、私はこれからも「トランプ時代」の話を書き続けなければならない。そしてトランプは、この100年で最も力強い政治家になりかねない。アメリカのように細かく分断されてしまった国では、物事がどちらへ転ぶかは、マスメディアに背を向け政府にも政治にも無関心な有権者が考えを変え、雨の日に投票所へ足を運んでくれるかどうかに懸かっている。