アメリカの歴史に名を残す「トランプはこの100年で最も力強い政治家に」地滑り的勝利には理由がある
トランプを忌み嫌う人はいるがより多くのアメリカ人が彼に共感
②地位の喪失から生まれた復讐心 トランプはこの国の時代精神を最も鋭く読み取っている。一部のエリートに対する大衆の怒りを、ほとんど直感で理解している。ニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストであるデービッド・ブルックスに言わせれば、こうだ。 「聞こえてくるのはリスペクトの再分配だ。高学歴の者は祭り上げられ、その他の者は姿が見えない。特に男子はきつい。高校生になると成績上位10%の3分の2は女子で、下位10%の約3分の2が男子だ。学校教育は男子に味方しない。それが個人の一生にも国全体にも影響を及ぼす」 選挙戦終盤で、トランプはジョー・ローガンやネルク・ボーイズなど、若い男性に人気のポッドキャスト主宰者に接近した。結果はどうか。トランプ当確が報じられた途端に、SNSではこんな文句が拡散した。 「アメリカの国としての性別が判明したぞ、男の子だ!」。共和党全国大会でジェームズ・ブラウンの名曲「マンズ・マンズ・ワールド(男の世界)」と共にトランプを登場させた演出も秀逸だった。 トランプはその生涯を通じて今も移り変わる自分の地位にひたすら執着してきたが、手に入れた地位を失うのは、誰にとっても悲しいことだ。この点を説明するために、私は常々、ある些細でばかばかしい例を挙げてきた。 私はあまりに出張が多いので、航空会社から超エリート会員の扱いを受けてきた。上位0.1%に入る上客向けに用意されたステータスよりも高い、内緒の地位だ。しかしある年、育児休暇を取ったためその地位を失った。それでも表向きの最高ステータスは維持できたが、個人的にはすごく深刻な喪失感があった。 本当にばかばかしい例だが、そういう喪失感に由来する怒りがあると復讐心に火が付くのは人の常。もちろんトランプを忌み嫌う人はいるが、それより多くのアメリカ人が彼に共感し、彼を信じようとしている。 ③世界的にも「現職」が不利 トランプは世界的な「反現職」の波に乗った。21年1月にトランプがホワイトハウスを去った時点で、彼の職務能力を評価する人は34%だった。ところが最近の世論調査では、当時のトランプを評価する人が48%に増えていた。その間に34件の重罪で有罪評決を受け、2度目の弾劾訴追を受けていたにもかかわらずだ。 なぜそんなことが可能なのか? 端的に言えば、今の時代に豊かな民主主義国家で野党側にいることには特別な利得があるからだ。この1年は世界中で記録的な数の民主的選挙が行われたが、政権与党が追い風に乗って勝利した例は一つもない。 イギリスでは保守党が歴史的大敗を喫し、フランスでは与党連合が議席の33%を失った。オーストリアの与党は議席の30%近くを失い、日本の自民党も史上まれに見る大敗を喫した。ただ負けるだけではなく、与党はどこでも惨敗している。 16年の大統領選の時と同様、トランプは予備選の段階から選挙戦を支配していた。誰が民主党の大統領候補になろうと、野党のトランプ側にアドバンテージがあった(民主党にスーパースターが生まれていたら話は別だっただろうが)。 ハリスがバイデンの支持率を上回った時期はある。しかしそれも、彼女自身のパフォーマンスの結果ではなく、単に彼女が現職の大統領ではないという事実に由来するものではなかったか。 かつての反乱者トランプが復活に成功したのも、彼の特別な資質というより、彼に強力な追い風を与えた外的状況のおかげだ。人間が情報を処理する際の非合理的な習性も彼に味方した。統計的に見ればインフレ率は落ち着いてきた。 賃金の上昇率はインフレ率を上回り、アメリカ経済は堅調だ。しかし、とある識者は指摘している。「自分の給料が上がるのは自らの努力と才能の結果だが、物価が上がるのは政府のせい。そう思うのが人間の心理だ」