外国人指導者が教える「勝てる日本人の育て方」──エディー・ジョーンズ、トム・ホーバス、フィリップ・ブラン
エディー・ジョーンズ(ラグビー)、トム・ホーバス(バスケットボール)、フィリップ・ブラン(バレーボール)は、日本のスポーツ競技に多大な影響を与えてきた世界レベルの指導者だ。 【写真を見る】3人の指導者から見えてくる「日本の姿」とは?
日本のスポーツ界は、外国生まれのコーチと出会い、発展を遂げてきた歴史を持つ。サッカーでは、1960年にデットマール・クラマーが来日し、日本サッカーの礎を築いた。それ以来、オフト、トルシエらがインパクトを与えてきたが、この10年ほどでほかの競技でも多大な影響を与える外国人指導者の来日が相次いだ。
フィリップ・ブラン
元バレーボール男子日本代表監督。1960年、フランス生まれ。2021 年の東京五輪後に監督就任。23年のネーションズリーグで3位となり、主要国際大会では46 年ぶりとなるメダル獲得に貢献した。 今年のパリ・オリンピック、日本男子バレーボールは久々の期待に沸いた。惜しくも準々決勝でイタリアにフルセットの末に敗れたが、記憶に残る戦いを見せてくれた。このチームを作ったのが、フィリップ・ブランである。ブランは2017 年に日本代表のコーチとして来日したが、当初は戸惑うことばかりだったという。 「日本のチームにポテンシャルを感じていました。たしかに身長の面では外国勢に劣るのは事実です。それでもデータ分析を基にしたチーム・ディフェンスをインストールできれば、十分に戦えると思っていました。そのためには、個々人が身につけなければならないスキルがありました」 ブランは面談を通して、選手たちに求める技術を伝えていく。 「私には明確なリクエストがありました。いい面談ができたと思いましたよ。選手たちはみんな『ハイ』と答えてくれましたから。ところが、プレイが一向に改善しないのです」 選手たちは従来のプレイスタイルを続けており、理解が十分ではないと感じたブランは、次の面談でより噛み砕いて要求を伝えた。 「それなのに、それなのにですよ。選手たちはスタイルを変えようとしなかった。ひょっとして、通訳が正確に訳してないのかと疑ったこともありました。そして3度目の面談で、私は半ばあきらめて、こう言い放ったんです。私はあなたたちに十分、説明した。今度は、あなたがどんなことを考えてプレイしているのか、説明する番です。さあ、始めてください、教えてくださいと」 この言葉を聞いて、選手たちはショックを受けた様子だったという。 「この面談を終えてから、ようやくコミュニケーションが好転し始めました。それまでに2年ほどかかりましたかね。日本の選手たちは、中学、高校時代に自分の意見を求められず、指導者に対していい返事をすることばかりを求められてきたのだと気づきました」 ブランのこの指摘は、日本人にとっては耳が痛い。年長者が求めたことを正確に遂行するスキルを磨くことはできるかもしれないが、10代のうちに「考えること」が省かれてしまうからだ。 そしてもう一点、ブランは「日本人はシリアスすぎる」ということを指摘していた。特にセッターの関田誠大については「もっと楽しむことを知ってほしい」と話していた。 「関田は完璧主義者です。常に100パーセントのプレイを求める。しかし、バレーボールの試合ですべてのプレイを完璧に遂行するのは無理な話です。バレーボールとは不思議なスポーツで、時に20パーセントでも勝つ場合がある。関田は完璧を求め、シリアスになりすぎていました。私はもっと、もっとバレーボールを楽しんでほしかった」 関田は中学、高校、大学とすべて日本一を経験している。競技人生で「勝つこと」に重きが置かれていたことが想像できる。 物事に対してシリアスであることは、悪いことではない。しかし、シリアスすぎることは日本人の弱点でもある。