外国人指導者が教える「勝てる日本人の育て方」──エディー・ジョーンズ、トム・ホーバス、フィリップ・ブラン
エディー・ジョーンズ
ラグビー日本代表ヘッドコーチ。1960年、オーストラリア生まれ。2015年から23 年まではイングランド代表やオーストラリア代表でヘッドコーチを務め、24年に現職に復帰した。 コロナ禍の時に、私はホーバスと現在、ラグビー日本代表のヘッドコーチを務めるエディー・ジョーンズの対談に陪席したことがあるが、長時間練習には弊害が伴うことでふたりは同意していた。ジョーンズは言う。 「これは日本の労働環境にも共通していることかもしれませんが、日本の教師、リーダー、コーチは、メンバーを長時間拘束することで支配的地位を示そうとします。つまり、時間の管理です。ただし、そのマイナス面に気づいている人は少ない。一例を挙げましょう。高校の部活動で『今日は朝8時から夕方5時まで練習』と分かっていたら、高校生は午前中に全力を出すことは不可能です。人間は、8時間練習があると言われたら、その長さに最適化するため、出力を抑えてしまうのです。試合では全力でプレイしなければならないのに」 こうした傾向を、どう改善すればいいのか?ジョーンズは指導者のクリエイティビティが必要だと話す。 「長時間練習をすべて否定するものではありません。ただ、100パーセントの出力を求める練習と、時間をかけて教え込むべき練習の強弱、アクセントをつけるべきです。そこでコーチのクリエイティビティが試されます」 指導者が創造性を発揮すれば、練習は充実する。ただし、「良いチーム」を作るためには選手の中のリーダーの育成が重要だという。ジョーンズがチームづくりにおいてこだわっているのは、「リーダーによる文化の継承」である。 「この10年間でラグビー日本代表を取り巻く環境は大きく変化しました。2015年のワールドカップ(W杯)で南アフリカを破り、そして2019年の日本大会ではベスト8に進出した。その過程でハードワークの徹底、コミュニケーションの重視といった日本代表ならではのカルチャーが確立しました」 カルチャーの継承にはメンターが必要だという。 「いま、2027年のW杯に向けて新しいチームをスタートさせたばかりですが、リーチマイケルは日本代表を体現する人間といっても過言ではありません。ピッチでは体を張ってチームを牽引し、オフ・ザ・フィールド(練習や試合以外の時間)でも若手と話す時間を積極的に持ち、日本代表のカルチャーを伝えてくれています」 日本におけるチームづくりの要諦は、「良きメンター」を育てることだとジョーンズは話す。 「日本には目上の人物を敬う伝統があります。そうした文化はプラスに働くことも多いのですが、問題が起きることもあります。トラブルメーカーが先輩にいると、その人の真似をしかねないのです。よって、尊敬されるメンターをチームに置くことは極めて重要です」 朱に交われば赤くなる。リーチのように目標、志を高く掲げるリーダーがいれば、集団として成長する可能性は高くなるという。メンターがいてこそ、集団の構成員による「フォロワーシップ」が生まれてくる。 「足が速い、強烈なタックルができるといったフィジカルなことは目に見えるものなので、理解しやすい。ただし、選手評価の基準として、周りにポジティブな影響を与えられる人間もまた、重要な存在です。良きメンターがいれば、それを見たメンバーが、自分の成長だけではなく、集団の成長を助ける働きを見せるようになります。日本人は自分の成長にフォーカスしがちな面がありますが、周囲の人間の成長を手助けする人間が日本代表には必要です」 3人の指導者から見えてくる「日本の姿」は、スポーツ界にとどまらず、日本社会を映しているのではないか。これからも海外出身の指導者と、選手たちとの出会いがどのような化学反応を見せるかが楽しみだ。 WORDS BY JUN IKUSHIMA ILLUSTRATION BY KOJI TOYAMA @ FARMONTE