外国人指導者が教える「勝てる日本人の育て方」──エディー・ジョーンズ、トム・ホーバス、フィリップ・ブラン
トム・ホーバス
バスケットボール男子日本代表ヘッドコーチ。1967年、アメリカ生まれ。男子日本代表では、2023年のワールドカップで24 年パリ五輪の出場権を獲得した。 それは、パリ・オリンピックでバスケットボール男子日本代表を率いたトム・ホーバスも感じていたことである。 ホーバスは1990年代にNBA、日本のトヨタ自動車でもプレイし、日本の風土に30年以上触れてきた。ホーバスは日本の経済活動のきめの細かさに感嘆する一方、スポーツのアバウトさに驚きを隠せなかったという。 「トヨタで働いていた時、車づくりに本当に感銘を受けたよ。ドアを閉める音にまで気を配って製造する。本当に素晴らしい。でも、1990年代の日本のバスケットボールは細かいことなんてお構いなし。ハッキリ言って、適当だった。繊細な車づくりをする国なのに、どうしてバスケットはいい加減なの?と思ってた。正直、当時はアメリカのバスケットボールの方がよっぽど細かいところまで作りこまれてた」 その後、男女ともに海外からの指導者が増え、日本のバスケットボールのレベルも向上していく。ホーバスは現役引退後、女子バスケの指導に当たるようになり、リオデジャネイロ・オリンピックではコーチ、のちに女子代表のヘッドコーチとなる。そこで直面したのが、選手たちがシリアスすぎることだった。 「みんな、ずっと練習してるのよ。私は、休みの日には自分の好きなことをしてリフレッシュすることが大切だと思ってます。そうすることで、またバスケットに対する集中力が上がるから。ところが、日本の女子選手はいつも練習していないと不安になる」 強豪校で育ってきた選手たちは、中学時代から朝、昼休み、放課後とずっと練習漬け。練習が気持ちを安定させる要素になってしまう。「一度、練習場から、みんなを追放したこともあります(笑)。さあ、休みなさいって。それなのに、時間が余ったらまた練習に戻ってくる(笑)。もう、分かったよという感じ」 そこでホーバスは“compromise”、「妥協」することを決めた。 「私が嫌だったのは、長時間練習することで集中力が削がれることだったんです。だから、練習はやってもいいから、テーマを持ってほしいと。練習のなかでの強弱を選手たちにつけてほしいと伝えました」 妥協という単語は、日本語ではネガティブな言葉として捉えられがちだが、compromiseという英単語の場合、両者が話し合い、前向きに解決するという意味が強いように思う。「交渉」というものに対する日本と欧米の違いではないだろうか。 ホーバスは日本人の傾向を理解し、それを飲み込みつつ、プラスの方向に働くようにcompromiseした。外国人指導者が日本で成功する要素のひとつとして、日本人の傾向を把握し、妥協点を見つけられることも重要な要素かと思う。