107歳まで生きた美術家・篠田桃紅さんの作品館を開館。「努力で成るものは、たかが知れてますわよ」の言葉に自分の指針を修正しながら
館については、「物事は、理想の70~80パーセントの構想を練りなさい。100パーセントはよい姿ではありません。追い追い足りないところを積み重ねていくのが、ものを作り出す人の姿勢です。建物は3回挑戦するものです」とアドバイスをいただきました。 ようやくマンションの一室で作品館をオープンしたのは、2005年のこと。オープン日においでくださったお姿が蘇ります。 14年に展示スペースを広くして、自宅に併設、という形でいまの場所に再オープンしました。もう1回挑戦したいところですが、私も80歳。さすがに2回でアウトになりそうです。(笑)
◆努力で成るものは、たかが知れている どういう人と出会うか、どういうものに出会うかは、自分が生きたい方向をどれくらいまっすぐに見ているかによって決まると思います。先生とは36年に及ぶ交流でした。15歳のときから憧れ続けた先生が「生き方の師」として導いてくださり、先生のあとを揺るがずついていったことで、私の人生は豊かになりました。 「人が敷いた道をゆっくり歩いていけばいいというような人生は、自分の性格には合わないから、手探りでも一人でこの道を生きていくしかない」と、芸術の道をまっすぐ歩まれた先生と違い、私はとおり一遍のことをして生きてきました。努力すれば願いが叶い、人にも評価されると考え、「努力が大切である」と高校で教え子たちに説いてきたのです。 ところが先生に「努力」についてうかがうと、じっと私の顔を見つめられて、「努力で成るものは、たかが知れてますわよ」とおっしゃった。のけぞりました(笑)。私は自分の指針を少しずつ修正しながら生きるようになりました。 こうした先生の言葉を、私は日記に細かに記してきました。先生とはお手紙のやり取りをたくさんしましたし、電話もしました。電話で先生は2時間くらいお話しになります。 私でさえ受話器を持つ手が疲れ、なにかにもたれかかったりしているのに、お手伝いの方に聞きましたら、先生は電話機の前に椅子を置き、背筋を伸ばして話をなさるそうです。