「クロウサギ飼育は地域の歴史」 大和村での記録まとめる 奄美博物館の学芸員ら
鹿児島県奄美市立奄美博物館の平城達哉学芸員と駒澤大学の須山聡教授らはこのほど、大和村思勝の大和小中学校(当時)でかつて飼育されていたアマミノクロウサギに関する記録をまとめ、日本島嶼(とうしょ)学会の学会誌で論説を発表した。約30年間の長期飼育が実現した要因や活動の意義を、学校・行政・地域社会の協働の視点から考察している。平城学芸員らは「クロウサギ飼育は地域の歴史でもある。奄美の方にも読んでもらい、書かれていないことがあればぜひ共有してほしい」と情報提供を呼び掛けている。 アマミノクロウサギは奄美大島と徳之島にだけ生息する固有種で、1963年に国の特別天然記念物に指定された。大和小中は国の許可を得て63年から92年までの29年間、校内の飼育小屋で傷病保護個体2匹を含む計13匹を飼育していた。このうち3匹は校内で生まれた繁殖個体で、人工飼育下でのアマミノクロウサギの繁殖例としては世界初という。 調査は2023年に同博物館で企画・開催した奄美群島日本復帰70周年記念企画展「ウサギ展―アマミノクロウサギのいろは」がきっかけ。平城学芸員と須山教授、このとき大和小の校長だった新村篤さんが協力して学校や村役場に残っていた飼育記録や国・村の文書、当時の新聞記事などを調べ、今年9月発行の「島嶼研究」第25巻2号で「鹿児島県大和村立大和小中学校におけるアマミノクロウサギ飼育の実践例」の題で発表した。
当時の生徒らの飼育日誌には、給餌量と前日分の残餌量、ふんの様子や、ウサギの活動の様子などが書かれている。夜行性であることや春と秋に巣穴を掘ること、繁殖期に激しい縄張り争いを行うこと、シイなどの樹皮をかじる習性があることなども注意深い観察によって記録された。 同校の活動は全国ニュースでも数回紹介され、生徒たちは県や全国レベルの研究大会などでも積極的に活動内容を発表した。67年の全国鳥獣保護実績発表大会では林野庁長官賞を受賞。68年の皇太子ご夫妻(現上皇ご夫妻)の行幸では飼育していた2匹を県大島支庁で展示し、県知事から感謝状を受け取っている。 駒大文学部地理学科地域文化研究専攻の須山教授は「クロウサギ飼育は村や住民の協力があって実現した。観光客が大勢来校したり子どもたちが島外で成果発表を行ったりと、社会に開かれた活動でもあった」と分析。平城学芸員は「記録が抜けた期間や分かっていないこともある。奄美の方が論説を読んで新しい情報を寄せてくれれば」と期待した。